日外会誌. 125(1): 30-36, 2024
特集
学会活動,診療・研究にSNS等のツールをどう活用するか
4.学会活動におけるSNSの活用と留意点―日本外科学会におけるこれからの取り組み―
日本外科学会情報・広報委員会SNSワーキンググループ/公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院消化器外科 山本 健人 |
キーワード
SNS, Social Media, 日本外科学会, 情報・広報委員会
I.はじめに
SNSの利用者は現在,世界で46億人を超える.SNSは今や日常生活において,なくてはならないコミュニケーションツールである.
本邦でユーザー数の多いSNSとして,LINE,YouTube,X(旧Twitter),Instagram, Facebookが挙げられ,これらを用いることで幅広い情報収集,情報発信が可能である.
また,2023年7月にMetaがリリースした新しいサービス「Theads」は,世界で約10億人のユーザーを持つInstagramアカウントをそのまま流用できるショートテキスト型のSNSであり,国内外で今後の動向に注目が集まっている.
一方,諸外国と日本の大きな相違点の一つが,学術領域におけるSNS運用である.海外の英文誌は,その多くが独自のSNSアカウントを持ち,これを用いて定期的に情報発信を行う.また,学術集会では学会参加者に積極的なSNS利用を促すアナウンスがなされ,医師,研究者同士がSNSを用いて学術関連のディスカッションを盛んに行う.
例えば,American Society of Colon and Rectal Surgeons(ASCRS)の公式Xアカウントのフォロワー数は1.6万人で,公式英文誌The Disease of the Colon & Rectum(DCR)のフォロワー数は1.4万人と,日常的に多くのユーザーに直接的に情報を届けられる仕組みを持つ.実際,ASCRSのAnnual Meetingに参加すると,指定のハッシュタグとともに参加者にSNSでの発信が呼びかけられ,日本とは大きく異なるSNSのあり方を目の当たりにできる(図1).
なお,先述の新しいSNS「Theads」も,リリース後2カ月の時点で,すでにNew England Journal of Medicineはフォロワー数4.8万人,Scienceは4.5万人,Natureは2.4万人と,多くの英文誌が早々に多くのフォロワーを獲得しており,海外の学術領域におけるSNSの位置づけがよく分かる.
以上のように,SNSは学術領域において非常に有用なツールであるが,日本ではまだ発展途上である.筆者は,個人のSNSアカウントで合計約12万人のフォロワーを持ち,2022年には本学会情報・広報委員会においてSNSワーキンググループの代表を拝命し,SNS運用の準備を進めている.
本章では,SNS運用を行う上での留意点や,今後の展望について述べる.なお,海外では「Social Media」や「SoMe」の呼称を用いるのが一般的だが,本章では国内で最もよく用いられる「SNS」で統一する.
II.学術領域におけるSNS活用例
(1)海外雑誌や学会におけるSNS活用例
海外の英文誌や学会,医療機関の多くは公式SNSアカウントを持ち,SNSによる定期的な情報発信を重視している.表1は,海外の代表的な外科系英文誌や学会,医療機関のXのフォロワー数をまとめたものである.
海外英文誌の中には,論文投稿時に筆頭著者のSNSアカウントを記入する欄が設けられ,出版された論文にSNSアカウント名が記載される雑誌も多い.例えば先述のDCR誌は,公式SNSで論文出版時に論文内容を発信する際,筆頭著者のSNSアカウントも同時に記載する.
図2は筆者の筆頭論文が出版された際の投稿(2023年4月29日)で,“keiyou30”が筆者のアカウント名である.これをクリックすると筆者のアカウントページに飛ぶことができ,即座に筆者をフォローできる.この投稿は6万人以上に閲覧されており,この仕組みは,論文自体のみならず著者の発信力向上にも寄与する.
(2)国内成功例
日本国内でも,数は少ないがSNSによる情報発信に長けた学会が複数ある.表2は,国内の代表的な学会公式アカウントのXフォロワー数をまとめたものである.
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は,2020年11月に公式アカウントを開設し,主に一般向けの情報発信を積極的に行っている.同学会は,公式サイトにおける一般向け情報集も充実しており,元来インターネットでの情報発信に注力してきた学会である.
一方,日本循環器学会は2017年6月にアカウントを開設し,国内では最も古参の学会公式アカウントの一つである.特に学術集会の会期はSNS上で盛んに情報共有を行い,学会の存在感,雰囲気の良さを,多くの医師,医学生にアピールすることに成功している.同学会は,40人近くの公式SNS協力員の実名をホームページ上で公開しており,ポリシーに抵触する投稿には協力員が即座に対処する.こうした仕組みが安全性の高い運用を可能にしている.
また日本緩和医療学会や日本小児アレルギー学会,日本癌治療学会などは公式Instagramアカウントを持ち,情報発信を行っている.Instagramについては,テキストより画像投稿に親和性の高いSNSである点と,他SNSにおけるリポスト(リツイート)・シェアのような拡散機能がない点で,テキストを中心とした学術情報を広く発信する目的に若干不向きであり,現時点で本学会では運用を検討していない.
III.SNSのリスクと留意点
学会のSNS運用には,当然ながらリスクもある.ここでは,過去に起きたいくつかの「炎上事例」を紹介する.本学会の事例も含まれるが,当該の関係者を非難する意図は全くない.過去の失敗例から得た教訓をリスク低減に繋げるための情報共有が目的である.
(1)A学会の事例
A学会公式アカウントから,「たった一つの質問で,救われる生命があります.主治医に対して聞いてください」との文言から始まる患者への指南がなされたが,これが患者に不安を与えるとの批判が相次いだ.学会員からも「誤解を与える投稿である」「多くの患者を当惑させる」との声があり,投稿は削除され,アカウントは閉鎖された.
本投稿は,当該学会領域を舞台とした医療ドラマとのタイアップ企画が背景にあり,ドラマのテーマに即したゆえに,過激なトーンになったものと推測された.
SNSにおける短文投稿では背景の説明が不足しがちであり,長文での発信より遥かに誤解を招きやすい.患者に対して不安や不快感を与える投稿でないかどうか,常に厳重な点検が必要である.
こうした点で,SNSでの投稿は複数のワーキンググループメンバーが校閲してからなされるのが望ましい.個人の倫理観や価値観に依存する発信は,炎上リスクが高いためである.
(2)B学会の事例
「いまB学会チャンのための,カンファレンスを,しているよ オジサン達の,頭の中は,B学会チャンのことでイッパイだよ ナンチャッテ笑笑」(一部改訂)といった,当時流行していた「オジサン構文」を模した投稿がなされたが,学術団体として不適切であるとの批判が相次ぎ,のちに謝罪文の投稿とともにアカウントは閉鎖された.
親しみやすい発信が目指されることは重要だが,その一方で学術団体にふさわしい,品のある投稿が求められるのも事実である.学会が発信する情報を閲覧する多くの非医療者は,その学会員たる医師たちに自らの健康を預けている.信頼を損なうほどに砕けた姿勢は,医師を束ねる組織にとって理想的とは言い難いだろう.
(3)C学会の事例
学術集会の特別企画として,珍しい症例を紹介するセッションが催され,これがSNSで紹介された.しかし,そのセッションに含まれる演題タイトルが当該患者を揶揄するものだとの批判が相次ぎ,炎上に至った.
医師にとっては興味を引く症例報告でも,非医療者にとっては時に不快感や恐怖心を抱かせることがある.学術集会は本来,学会員のためのclosedなイベントであり,演題がSNSで広く発信されること自体,あまり望ましいことではない.
また,SNS全盛の現代,そもそも「closedな情報は存在しない」と考えることも大切である.「拡散されないよう注意する」より,「拡散されても問題ない発信を心がける」ことを重視すべきであろう.
さらに,言うまでもないが,患者を揶揄したり嘲笑したりするトーンが透けて見える発信は,拡散されるか否かにかかわらず許容されない.
(4)本学会の事例
本学会の定期学術集会において,学会員が全員懇親会の動画を撮影してSNSに投稿し,炎上を招いた事例があった.学会会場での撮影行為は禁止されていたことや,新型コロナの5類移行前にノーマスクで宴会が開かれたことが批判の的となり,一時は「外科学会」というワードがXの「トレンド入り」(トップニュースの扱い)になるなど,学術団体としては前代未聞の事態に発展した.
公式SNSアカウントを持たない本学会は,SNS上でポリシーの周知ができず,またポリシー違反があった際,当該学会員にSNS上で公式に連絡する手段を持たない.これが対応の遅れにつながり,炎上という事態を招いた.改めて,学会として公式SNSを持つことの重要性が認識されたと同時に,本学会SNSワーキンググループとして,学会員のSNSリテラシー向上に注力すべきであることが痛感された.
SNS全盛の今の時代,あらゆる情報はSNS上で拡散され,炎上を引き起こすリスクがある.例えば,学術集会のサイト上に掲載される派手な懇親会の告知画像や観光情報などがSNSで拡散され,一般の方々に学術集会のあり方を誤解されるリスクには,医師として自覚的でありたい.今後もウェブ上での情報の取扱いには十分に留意すべきである.
IV.日本外科学会におけるSNS利用の展望
現在,本学会公式SNSアカウントの立ち上げを計画しているが,ここではその運用の目的,今後の計画について述べる.
(1)学会員への情報共有
現在,本学会から学会員への情報共有や告知は,主にメーリングリストによってなされているが,メールでは十分な周知が難しいことが情報・広報委員会で課題として挙げられていた.特に若い世代にはSNSで情報収集を行う学会員が多いため,学会員向けの告知をSNSで行うことは有用と考えられる.
具体的には,eラーニングの告知や専門医試験,専門医更新に関する告知,公式英文誌であるSurgery Today誌,Surgical Case Reports誌の刊行告知,和文雑誌の刊行告知,定期学術集会関連の告知などを公式SNSアカウントで発信することを計画している.
特に本学会公式英文誌に関する情報は,SNSによって国外にも発信できるため,SNSの利点が生かされやすいと考える.
(2)イベントへの集客
学会関連イベントにおいてSNS集客が成功した事例はまだ少ないが,例えば2022年10月に行われた小児救急市民公開フォーラム(日本小児科学会主催)では,学会員によるSNSでの告知を有効活用し,3,000人近くの参加者を動員した.
また,2023年4月に開催された日本医学会総会博覧会では,公式SNSアカウントを積極的に運用し,会期の9日間で35万人を超えるリアルイベントへの集客と,42万ページビュー(PV)を超える公式サイトへのアクセスを実現した.
本学会でも定期的に市民公開講座を行っているため,これらの告知に公式SNSアカウントを利用することで,これまで以上の集客が実現できそうである.
また,若手医師,医学生を対象とした企画への集客にも,SNSは有効である.特にSNSで情報収集を行う若い世代を対象にする場合,メーリングリストよりSNSの方が有効である可能性は高いだろう.
外科医が減少の一途を辿る中,本学会のアクティビティを高めるためにも,積極的な企画の立案とSNSにおける告知の連動が重要な施策になると考える.
(3)効果を学術的に評価する
学会公式SNS運用のパイオニアである日本循環器学会は,2019年から2021年に開催された学術集会におけるSNSの効果を検証し,水野らはその結果をCirculation Reports誌に報告している1).この文献では,学会SNS協力員による投稿の拡散が重要であることと,特に「フォロワー1万人以上」と定義された“influencer”による投稿の拡散が,SNSにおいて情報を広める上で有意に効果的であることが示されている.
本学会においても,SNS運用開始後はその効果を定量的に評価し,学会・論文発表することを計画している.
(4)論文評価の指標Altmetrics
近年,論文を評価する新たな指標としてAltmetricsが注目されている.Altmetricsとは,論文ウェブページのPV数,論文PDFのダウンロード数,SNSでの引用数,マスメディアによる言及などを総合的に評価し,個々の論文が社会に与えた影響を包括的かつ即時的に数値化する指標である.現在,大手出版社の多くがAltmetricsを導入しており,論文ウェブページの目立つ場所にAltmetrics Scoreを表示するJounralも増えている.例えばAnnals of Surgery誌は,論文タイトル横,ページ最上部にAltmetrics Scoreを表示しており,この指標にいかに重きを置いているかが分かる.
これまで論文の評価は主に「他の論文からどの程度引用されるか」によってなされ,数値的な指標として,Impact Factorや著者個人のh-indexが頻用されてきた.しかし,これらは必ずしも論文そのものの評価指標と言えるものではなく,また評価が反映されるまでにある程度の時間を要することも欠点であった.
SNSを含め,多彩な情報の発信・受信ツールが使用される現代において,論文の影響力は複数の視点から複合的に評価されるべきであり,かつその評価はリアルタイムであることが望ましい.これらのニーズに応えた仕組みがAltmetricsである.
Lucらは2020年,The Annals of Thoracic Surgery誌においてAltmetricsスコアが最も高かった50文献を検証し,SNS(Twitter,現X)での発信がAltmetricsスコア上昇に独立に寄与する因子であったと報告している2).
以上のことを勘案すると,学会公式SNSの効果計測にAltmetricsは有用なツールになると思われる.本学会誌の影響力を評価し,高める上でAltmetricsの活用を検討している.
(5)他学会との連携
2023年4月に日本内視鏡外科学会が公式Xアカウントの運用を開始したが,今後も各種学会がSNSでの情報発信に注力していくものと予想される.しかしSNSユーザーの立場からすれば,多くの学会が各自アカウントを立ち上げ,独自に情報発信を行う環境は必ずしも利便性が高いとは言えない.
外科系学会の中では「1階建部分」に相当する本学会の公式SNSアカウントが,各種外科系学会と連携し,相乗効果によって広く情報を届けられるような仕組みを整えていくことが望ましいだろう.
(6)一般向け情報発信の重要性
2022年9月,日本麻酔科学会は公式SNSアカウントを利用し,一般に向けて重要な注意喚起を行った.その内容は,同学会会員が関わるクリニックにおいて,プロポフォールやデクスメデトミジンが睡眠療法やダイエットに不適切使用されているとの情報がSNS上で広まったことに対し,これらの使用が推奨されない旨を公式に発信したものであった.
また2021年9月には,「ザ・世界仰天ニュース」(日本テレビ系)において,ステロイド外用薬に対する恐怖や不安を煽る不適切な内容が放送されたことに関し,日本皮膚科学会や日本アレルギー学会,日本小児アレルギー学会などが連盟で抗議を行った旨が,学会公式サイトに掲載され,この情報がSNSで広く拡散された.
このように,テレビや週刊誌,インターネット,SNSなど,さまざまな媒体で患者が医療情報に触れられる現代において,誤った医療情報が拡散した際に学会が公式にそれを否定し,正確な情報を直接発信できるツールを持っていることは極めて重要である.
本学会の公式SNSアカウント運用は,こうした目的においても有用であると考える.
(7)YouTube動画コンテンツの重要性
2023年8月,米Google傘下のYouTubeが,医療に関する誤報についてのポリシー強化と,誤ったがん治療に関する動画の削除を発表した.近年,動画で情報収集する人は増加しており,その対象は医療にも及ぶ.しかし,患者に健康被害を与えかねない,科学的根拠に乏しい情報が数多くあることは兼ねてより問題視されており,Googleがこれに対策を講じた形である.
YouTube上には良質な英語動画も多くあり,American College of SurgeonsやMayo Clinic,MD Anderson Cancer Centerなどの公式アカウントは数万から数十万人のチャンネル登録者を有している.こうした学会や医療機関から発信される動画情報は,今後ポリシー強化によって誤情報が削除されることで,一般ユーザーに届きやすくなると推測される.
しかし,日本語の医療系動画はその物量が圧倒的に不足しており,動画でアクティブに情報発信を行う学術団体は極めて少ない.本学会は,公式サイト上に市民公開講座の動画コンテンツなどを豊富に有しており,こうした枠組みを利用して,動画でも一般向けに情報発信を行うことが重要であると考える.
V.おわりに
本章では,学術領域をめぐるSNS運用の現状と,本学会における公式SNS運用の展望についてまとめた.リスクに十分に留意しながら,SNSを有効活用することが肝要である.
利益相反:なし
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