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日外会誌. 125(1): 17-21, 2024

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特集

学会活動,診療・研究にSNS等のツールをどう活用するか

2.学会活動におけるSNSの活用と留意点―日本循環器学会の取り組み―

国際医療福祉大学大学院医学研究科 循環器内科

岸 拓弥

内容要旨
医学系国際学会においてX(旧Twitter)を活用した広報や情報発信,討論は以前より活発に行われているが,日本においては医師個人でXの活用を積極的に行っていることは多いにもかかわらず,学会においてはほとんど行われていなかった.そのような中,日本循環器学会は筆者が情報候補部会に参画した頃から公式X活動に関する行動指針を正式に作成し運営メンバーを確立した上で2018年に公式X活動を開始し,これまで日本ではできなかった活動を行うことができた.またその活動は論文として発表してきた.5年間行ってきた公式X活動を振り返り,見えてきた問題点も含めて検証し,今後の日本の医学系学会における公式X活動のあり方について考える.

キーワード
Social Networking Service, Twitter, X, 学会

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I.はじめに
数年前から,医学系の主要国際学会では情報発信にXなどsocial networking service(SNS)を活用して情報発信を行っており,多くのフォロワー数を獲得している.Xの利点は,投稿がタイムリーに時系列に並んでフォロワー全員に届き,repost(旧retweet)で不特定多数に情報が広がることである.また,医療関係者だけでなく一般市民も検索ツールとして利用するようになってきている.また,海外の学術集会では,発表スライドの写真がXでリアルタイムに学会独自のハッシュタグをつけてpost(旧tweet)され,多くのユーザーが検索し,討論をX上で繰り広げる,まさに“tweet the meeting”という言葉が現実となってきている.そのような国際的な情勢からすると,日本の医学系学会におけるX活用は圧倒的に遅れていたが,2018年に日本循環器学会は公式アカウントの運用を本格的に筆者が中心となって開始した.

II.日本循環器学会のXへの取り組み
筆者は海外学会でのX活動の熱気と学術的な盛り上がりを日本でもやりたいと思ったが,既に開設されていた日本循環器学会公式アカウントのフォロワー数は当時わずか8であった.学会公式Xを開始するにあたり理事会に提案し,反対意見も少なくなかったが,筆者は「他の日本の学会ではやっていない先駆的なことをするのが日本循環器学会のブランディングにつながる」「うまくいけば,今回この承認をした理事会メンバーは歴史に名を残せる」「まずトライアルを行い理事会で設定した条件をクリアできてから公式にする」「活動は全て論文にする」とプレゼンテーションをして理事会の承認を得た.2カ月後にフォロワー数を1,000まで増やせば公式活動として認める,というのが理事会の出した条件であった.そこで,当時の日本循環器学会会員でXのフォロワー数が多く炎上せず発信力に長けたメンバーでチームを編成し,炎上しない安定した運用をするためのルール作りを行い,学会の歴史や最新情報,学会誌,各種ガイドライン,海外の学会情報,注目論文を紹介する投稿を開始した.2018年12月の日本循環器学会九州地方会で,公式ハッシュタグを決定し,登壇者にはスライドの撮影の許可をとり,公式アカウントで発表ごとにpost(旧tweet)をした.加えて,演者や座長へのインタビュー動画配信を行い,「すわん君」@suwankun_kin_en(日本循環器学会の禁煙推進キャラクター)がインタビューアーを務めた.その結果,学術集会1日でフォロワーが1,000人を超え,公式として開始する条件をクリアした.さらに,フォロワー数が多くインフルエンサーの役割が期待できる日本循環器学会会員を情報広報部会とは別に公式サポーターとして学会で認定し活動に協力してもらう事とした.また,この段階で日本医学系学会では初めてX利用指針の作成・公開も行い,学会公式活動の環境が整備された.なお,投稿の医学的な根拠は全て日本循環器学会のガイドラインとし,ガイドラインへのリンク先(学会ホームページ)を常に掲載するようにした.
2019年3月の学術集会では,日本国内の医学系学会では初めての,大規模なXの活用を学会公式の活動として開始した.プレナリーセッションやシンポジウムの全演者に事前にXでスライドを撮影・投稿することの許諾を依頼(90%を超える演者から許諾を取得)し,各発表のキースライドを指定された情報広報部会委員・サポーターが写真撮影して#19JCSの公式ハッシュタグをつけてpost(旧tweet)し,学会員だけでなく一般の方も参加してのX上の討論も活発になった.また,演者と座長が参加するセッション後のインタビュー動画もpost(旧tweet)した.その結果,フォロワー数は学術集会後には5,000人近くまで増加し,学術集会中でのツイート数は7,587,ツイートを閲覧したユーザー数であるインプレッションは377,000にも登った.
しかし,2020年初頭よりCOVID-19パンデミックの影響で日本国内医学系学術集会のほとんどすべてで中止・延期となり,日本循環器学会学術集会も延期され完全オンライン開催になったため,X活動の必要性はないのではと懸念した.しかし,プログラムやホームページだけでは把握できない興味のあるセッションのことを知るきっかけにXがなれば意義があると判断し,オンライン学会でもX活動を継続することにした.サポーターを増員し,2019年と同様に許諾を得られた発表はスライドを公式サポーターがノートパソコンやタブレット上で撮影し,公式ハッシュタグ#20JCSでpost(旧tweet)して公式アカウントでrepost(旧retweet)を行った.その結果,会期中のpost(旧tweet)数は23,867と激増し,インプレッションは72,343,000となった.公式アカウントのフォロワー数も7,000を超えた.
2021年の学術集会ではオンラインを中心とするハイブリッド開催となったが,2019年の現地開催と2020年の完全オンライン開催で蓄積したX活動のノウハウを活用した.また,開催100日前から全国の大学循環器医局や学会関連医療機関が作成した自施設PRおよび学術集会応援動画を1日1施設ごとfacebook投稿および公式アカウントでpost(旧tweet)する「カウントダウン100」企画を行った.その中には視聴回数が10万を超える動画もあり,学術集会直前に学会公式アカウントのフォロワー数が国内医学系学会では初の10,000人超えを達成した.
その後は2022年の完全オンライン,2023年の完全現地開催の学術集会でも体制の拡充を行いながらX活動を行い,学会参加者のpost(旧tweet)内容の医学的な内容も向上し,炎上することなく5年間の活動を行うことができた.2023年9月19日時点でのフォロワー数は18,942となっている.現在は,公式アカウントでの投稿は学術集会や学会活動の広報や公式ジャーナル掲載論文に限定し,循環器病疾患啓発に有用な投稿などをrepost(旧retweet)することで「日本循環器学会が認めた」ものとする,公式アカウントのブランディングを行っている.
なお,日本循環器学会のX活動は,論文として発表している1)3).その結果,公式サポーターによる効果はあるが限定的であり,Xのいわゆるインフルエンサーと言われるフォロワー数も多くインプレッション数の多い投稿に長けているユーザーとの連携が重要であることが明らかとなった.また,画像をつけた発表内容に関する投稿やガイドライン関連セッションの投稿でインプレッション数が有意に多いことに加え,3日間の学会だと2日目および3日目の投稿が初日に比較して有効的であることも明らかとなった.
炎上対策については,学会で作成・公開した指針に基づく投稿を心がけ,筆者が部会長をしている情報広報部会メンバーで投稿やrepost(旧retweet)内容は常にチェックを行ってきた.また,X上では討論をしないようにして,direct messageについては事務的な内容は該当する担当事務局に連絡するだけにとどめて個別の返答は行わないようにした.その結果,大きな炎上はなくここまで運営している.

III.日本循環器学会のXで感じた利点
学会でXを活用することにより会員に向けた情報発信だけでなく,患者や家族も含めた一般の方に医療情報を広報することが可能になった.特に,ガイドラインや学術集会での注目セッションをより多くの人に見てもらえるようになった.日本循環器学会は全てのガイドラインを無料公開しているので,Xとの相性もいいと感じている.また,育児や病気療養中の学会員が学会活動に参加し最新の知見を学ぶことができるため,学会の目的である会員の教育という点でも有用である.さらに,Xユーザー間の関係性やpost(旧tweet)された言葉をクラスター解析することで,これまでの学会ではできなかった参加者の行動解析や注目用語の動的な分析が可能となり,プログラムの編成や企画に活用できるようになった.
また,Xは学会公式ジャーナルにとっても有用である可能性がある.論文の質的評価指標として,impact factorや引用回数とは異なりSNSでのさまざまな指標も反映させたaltmetricsが社会に与える影響を加味した実効的な指標となりつつある.最近は,altmetrics上昇が引用回数増加・impact factor上昇につながるという研究結果もあり4),世界中で多くの学会や出版社が論文の内容をSNS,特にXで投稿するようになっている.日本循環器学会も,公式ジャーナルであるCirculation JournalおよびCirculation Reportにアクセプトされた全ての論文を対象に,著者にX用サマリーとgraphic abstractの作成を依頼し,可能ならXアカウントも提示してもらい,それらを学会公式アカウントでpost(旧tweet)する活動を開始した.その効果として,オンライン発刊の数カ月後に内容のサマリーとデジタル識別標識子(Digital Object Identifier; DOI)にgraphic abstractを添付したpost(旧tweet)により,論文へのアクセス数が有意に増加することを論文に発表5)し,現在は引用数やimpact factorに与える影響について検証している.
このように,Xとホームページとガイドラインを密接に連携させて,一般向けよりは会員向けの,淡々とした無理にフォロワー数を増やそうとしない運営が現在の日本循環器学会公式Xの方針である.なお,日本循環器学会の日頃のXの雰囲気が「優しい」ものであるというイメージが浸透したためか,攻撃的な投稿や返事がない(できない)ようになったことは予想外のことであった.

IV.日本循環器学会のXが抱える問題点
上記のように良い点がある一方で,問題点も少なくない.何より,学会全体の数%に過ぎない一部のXユーザー間でのみの活動であり,学会内部に向けた広報活動にはなっていない点である.学術集会中にXで公式ハッシュタグをつけたpost(旧tweet)を行ったのはわずか300人程度に過ぎない.また,会員向けの情報広報やスキルアップを目的とするのか,一般向けの疾患啓発を目的とするのかの問題である.現在は,日本循環器学会は会員向けの情報発信を中心に行い,一般向けの疾患啓発は2021年に設立された日本循環器協会(筆者も理事を務めている)の公式X@j_circ_assocが行うようにしている.
また,最近のTwitterからXへのアルゴリズム変更により,インプレッション数の定義やハッシュタグの扱いが大きく変わったため,これまでの運営では従来のようなインプレッション数が得られない状況となっている.この点は現在,今後の方向性について検討中である.

V.日本の医学系学会におけるXのこれから
日本の医学系学会のX活動では,活動指針の作成や解析論文発表も行うことができ,日本循環器学会は歴史を少し変えることができたと感じている.他学会から公式Xに関する相談を受けることも少なくないが,多くの学会がフォロワー数2,000前後で留まり,学会上層部からサポートもなく若手担当者が苦慮している状況も耳にする.さらに,X活動は公式となると時間も労力も少なくなく責任も生じる割に,学会への貢献として評価されにくいことを懸念している.日本循環器学会は,この点では学会上層部の理解があった点は大きい.学会の広報活動は,XなどSNSだけではなく,ホームページの整備を行うことが最も重要であり,そこには学会予算と人員を十分に確保して,外注(広報に特化した業者との連携)も行うことが必要であると考える.
なお,2024年3月の日本循環器学会学術集会より,許諾を得られた演者から演題に関する権利関係を発表者から学会に譲渡する覚書を交わし,発表スライド内容に関して参加者が自由にSNSへ投稿したり学会が広報に使用することが可能になる予定である.これは欧米の学会では既に以前から行っているが,日本国内の医学系学会では初の取り組みとなる.ぜひご注目いただきたい.

VI.おわりに
医師の世界ではXをやっているというのは,ともすると変わり者扱いをされているが,医師としての情報収集・自己研鑽・社会貢献の観点ではXなどSNSを活用することは有用である.しかし,医学系学会の公式活動とする場合には「誰の・何を・どのように変えるか?」を学会総体で明確にして,一部の若手が勝手にやっている状態を避けることが重要と考える.

 
利益相反:なし

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文献
1) Mizuno A , Kishi T , Matsumoto C , et al.: Two-year experience in “Tweeting the Meeting” during the scientific sessions -rapid report from the Japanese Circulation Society. Circ Rep, 2: 691-694, 2020.
2) Mizuno A , Rewley J , Kishi T , et al.: Relationship between official twitter ambassadors and the number of retweets in the annual congress -“tweet the meeting”. Circ Rep, 3: 414-418, 2021.
3) Suzuki T , Mizuno A , Kishi T , et al.: Impact of tweet content on the number of retweets –“Tweet the meeting 2022”. Circ Rep, 5: 306-310, 2023.
4) Ladeiras-Lopes R , Clarhe S , Vidal-Perez R , et al.: Twitter promotion predicts citation rates of cardiovascular articles: a preliminary analysis from the ESC journals Randomized Study. Eur Heart J, 41: 3222-3225, 2020.
5) Mizuno A , Kusunose K , Kishi T , et al.: Impact of tweeting summaries by the Japanese Circulation Society Official Account on Article Viewship -Pilot Trial. Circ J, 86: 715-720, 2022.

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