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日外会誌. 122(6): 719-721, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「各疾患登録とNCDの課題と将来」
2.胃がん登録の現状とNCDへの実装

日本胃癌学会登録委員会委員長 
神戸大学 大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野

掛地 吉弘

(2021年4月9日受付)



キーワード
胃がん, 臓器がん登録, NCD

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I.はじめに
1962年に発足した胃癌研究会により胃癌取扱い規約・第1版に基づき全国施設からのデータ収集を目ざして1968年から胃癌全国登録が開始された.全国胃がん登録調査報告第1号は1963年の症例の集積結果が1972年に報告された.1990年代に一時中断し,2001年から再開されている.症例の登録は,個人情報の登録が不可となり追跡調査が困難となったことを考慮し,治療後5年以上経過した症例について 後ろ向きに予後情報を含めて登録する.参加施設数および登録症例数は増加してきた.年間の胃手術症例数が約5万例であることを考えると,全体の約4割程の症例が登録されていることになる.一方で,内科領域の内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の普及に伴って,内視鏡症例の胃癌登録も2013年から始まった.2004年からの症例に遡って登録症例が増えている.登録センター(新潟大学医療情報部)に集積されたデータは解析され,年ごとの報告書として日本胃癌学会のホームページに掲載されている.

II.全国胃がん登録
外科症例について,Kataiら1)が2001年から2007年までの125,284例をまとめて報告している.患者年齢の中央値は1975年の57.9歳,1990年の62.0歳に比べると2001~2007年は65.8歳と平均寿命の延びに合せて高齢化が進んでいる.2001年より刊行されている胃癌治療ガイドラインの普及とともに,cN(+)またはT2以深の腫瘍に対する定型的なD2リンパ節郭清に加えて,cT1N0腫瘍に対するD1またはD1+郭清の割合も増えてきた.腹腔鏡手術の割合も増えている.D1またはD1+郭清とリンパ節郭清を縮小した場合でも5年疾患特異的生存率はD2郭清に比べて劣ってはいず,むしろ良好であった.2010年のがん対策情報センターの罹患数(全国推計値)は125,730例であり,胃癌登録の手術症例数24,983例は約20%にあたる.NCDに登録された胃切除術・胃全摘術の2011・2012年の2年間の総計112,684例を平均して,年間約56,000例の手術件数とすると,胃癌登録25,000例は手術症例の約45%に相当すると考えられる.
早期胃癌に対する内視鏡的切除症例の後ろ向き登録は2013年に行われ,Tanabeら2)は2004年から2006年までの12,647例をまとめて報告している.EMRの一括切除率67%,完全一括切除率48%に比べて,ESDは各々95%,86%と有意に高かった.絶対適応病変や拡大適応病変に対して治癒切除が成された症例の5年疾患特異的生存率は100%近かった.

III.胃がん登録のNCDへの実装
厚生労働省の平成29年度臨床効果データベース整備事業により,日本癌治療学会および日本胃癌学会,日本泌尿器科学会とNCDの連携のもと,前立腺がん,腎がんとともに胃がんの臓器がん登録データベースがNCDへ実装された.これまでの全国胃がん登録を踏襲して,外科症例74項目,内視鏡症例45項目としている.2018年より,2011年症例の後向き登録(外科症例,EMR/ESD症例)と2018年症例の前向き登録(外科症例,EMR/ESD症例)を並行して開始した(図1).後向き登録は2011年から3年分は従来の全国胃がん登録とNCD登録を並行して行い,2014年分からはNCDに一本化した.
2011年はNCDに501施設から30,257例の外科症例が登録された3).従来の全国胃癌登録は比較的手術症例数の多い施設を中心に登録がなされていたが4),NCDの胃癌登録では,年間手術症例数が少ない施設からの参加が増えている(図2).治療成績が変わることも心配されたが,従来の胃癌登録の成績と比べて遜色ない生存率を示していた(図3).

図01図02図03

IV.おわりに―課題と今後の展開―
全国胃がん登録は,臓器癌登録として国内で最も早く開始されたうちの一つである.独自のステージ分類を定義し,わが国最多の悪性腫瘍であった胃がんの実態と手術成績を明らかにしようとする当初の目的は十分に達成されたと考える.
NCDに実装されたことで,より多くの施設から症例登録が増えており,外科症例の悉皆性は現在の60%程度からさらに高まることが期待される.データの精度保証について,品質を保証するAuditも望まれる.一方で登録作業の負担は大きく,効率化を目指して,Excelファイルなどを利用した一括upload systemも工夫している. Big databaseとして胃がん登録の益々の利活用が求められている.1)Clinical Questionに答える臨床試験をデザインして課題を検証する.2)複数のdatabaseの突合・連結化を行い,より高い次元での活用を試みる.3)得られた成果はガイドラインに反映し,政策提言にも活かしたい.情報化社会の中で,臓器がん登録の意義を考え利便性を増し,一層の利活用を進めていきたい.

 
利益相反:なし

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文献
1) Katai H , Ishikawa T , Akazawa K , et al.: Five-year survival analysis of surgically resected gastric cancer cases in Japan:a retrospective analysis of more than 100,000 patients from the nationwide registry of the Japanese Gastric Cancer Association (2001–2007). Gastric Cancer, 21: 144-154, 2018.
2) Tanabe S , Hirabayashi S , Oda I , et al.: Gastric cancer treated by endoscopic submucosal dissection or endoscopic mucosal resection in Japan from 2004 through 2006:JGCA nationwide registry conducted in 2013. Gastric Cancer, 20: 834-842, 2017.
3) Suzuki S , Takahashi A , Ishikawa T , et al.: Surgically treated gastric cancer in Japan:2011 annual report of the national clinical database gastric cancer registry. Gastric Cancer, 24: 545-566, 2021.
4) 日本胃癌学会:全国胃癌登録 2011年外科症例登録施設と症例数 http://www.jgca.jp/entry/iganhtml/reg_sts.html(アクセス日:2021年9月29日)

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