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日外会誌. 122(5): 561-564, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「≪緊急特別企画≫パンデミック状況下における外科診療と教育」
3.COVID-19パンデミックによる急性胆嚢炎診療への影響

1) 太田西ノ内病院 外科
2) 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科肝胆膵外科

鳫 翔大郎1)2) , 巌 康仁1)2) , 佐藤 公太1) , 千代延 記道1) , 坂井 義博1) , 丸山 裕也1) , 杉本 桃子1) , 深井 智司1) , 赤繁 徹1) , 遠藤 久仁1) , 伊藤 泰輔1) , 山田 睦夫1) , 石井 芳正1) , 山﨑 繁1)

(2021年4月9日受付)



キーワード
急性胆嚢炎, 東京ガイドライン, パンデミック, COVID-19, SARS-CoV-2

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I.はじめに
急性胆嚢炎(以下,AC)の国際診療ガイドラインである東京ガイドライン2018(以下,TG18)では,重大な併存症のないACの症例に対し,早急な腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨される1).外科介入の遅延は在院期間の延長を引き起こすと無作為化試験のメタ解析が示しており2),経皮経肝胆嚢ドレナージ(以下,PTGBD)は外科介入不能例などでは選択肢となり得る3)
しかし,COVID-19のパンデミック(以下,C-P)を受けて,英国のRoyal College of SurgeonsのガイドラインではCOVID-19への暴露を最小限にするため,手術は緊急手術と腫瘍の手術に限定された.待機手術も14日前からの患者の隔離と72時間以内のPCR検査を必須とした4).また,腹腔鏡下手術では気腹ガス内にウイルスが混入すると指摘され,COVID-19感染状況の不明瞭な患者には開腹術が勧められた5).すなわち全世界的にはC-Pにより緊急での腹腔鏡下手術や良性疾患に対する待機手術は制限を受けた.今後のCOVID-19変異株や未知なる病原体のパンデミックに備えAC診療へのC-Pの影響について検討することは重要かつ必要である.

II.方法
World Health OrganizationによるC-P宣言(2020年3月12日)前後の2カ月間(2019年9月12日~11月12日:A群と2020年3月20日~5月20日:B群)に当院においてACと診断し入院加療を行った18歳以上の症例,A群26例,B群27例を対象とする後方視的観察研究を行った.本研究は当院の臨床試験審査委員会の承認を得た(2020-10).
上記53名に対し患者背景因子として年齢・性別や血液検査所見,行った治療,治療後の経過について電子診療録より診療情報を収集した.術前併存症の指標としてTG18でも用いられているCharlson Comorbidity Index(以下,CCI)を6),術後合併症はClavien-Dindo分類(以下,C-D)7)を使用し,AC重症度分類はTG18に従った8).統計学的検証は,カイ二乗検定,Mann-Whitney U testを用いて行い,p<0.05を以て統計学的有意差とし,SPSS(version 27)を使用した.

III.結果
ⅰ)患者背景(表1
AB各群の詳細な背景は表1上部にまとめた.男女比や両群の年齢,BMI,CCI,TG18によるAC Grade分類は両群間に統計学的有意差を認めなかった.A群で血清ALP値が有意に高かったがその他の数値に有意差を認めなかった.
ⅱ)治療法の選択とその成績
両群の治療方針の選択とその後の推移については図1a,b,治療選択やその治療成績についての統計学検討の結果を表1下部にまとめた.各群で保存的加療を先行した症例/発症から1週間以内に手術を行った症例はそれぞれ19/7 vs 17/10(p=0.54)であり,保存的加療を先行した結果,無事退院した症例/PTGBDもしくは外科介入を要した症例やAC再燃により退院後想定外の再入院を要した症例はそれぞれ13/6 vs 9/8(p=0.34)であり,いずれも統計学的有意差を認めなかった.なお保存的加療選択後に入院期間内に手術を施行した症例のうち,手術施行までの期間の中央値は14 vs 9.5日(p=0.049)とB群で有意に短かった.術後ICU入室を要した2症例はいずれも併存症に対する術後管理としてのICU入室であった.C-D Grade Ⅲ以上の合併症を発症した1症例は,術後に診断された総胆管結石症に対し内視鏡的切石術を要した症例であった.また,在院期間の中央値は10.5 vs 12日(p=0.86)であり統計学的優位差を認めなかった.
サブグループ解析として,TG18の重症度GradeⅠおよびⅡとCCIが5点以下および6点以上とで細分類し上記と同様の統計学的検討を行ったが両群に有意差は認めなかった.

図01表01

IV.考察
A,B各郡において,患者背景,治療法の選択やその治療成績において統計学的有意差を認めなかった.特に重大と考えられる在院死亡は両群に認めず,在院期間の延長も認めなかった.本邦でのC-Pに関する緊急事態宣言は2020年4月7日であり9),今回設定したB群の期間との間に差異が生じていることで,C-Pによる当院での医療供給体制への影響はまだ小さかった時期の検討であったことが要因であると考えられた.
B群では保存的加療開始後外科介入までの期間が有意に短かったが,これはC-Pによる本邦での緊急事態宣言により国民の生活様式が変化し,交通外傷などの当院での緊急手術件数が減少したことに起因するものと考えられた.また近隣クリニックなどで消化管内視鏡の施行にも制限がかかり,消化管悪性疾患の手術待機症例数が減少していたことも予想された.
サブグループ解析では特に緊急手術をより選択しやすい条件として,TG18のGradeⅠやCCI≦5を想定したが,両群で有意差を認めなかった.当院が手術室関連スタッフの確保に難渋していることも関連があるものと推察された.

V.おわりに
本邦でのC-Pは諸外国のものと比較すると時期がずれており,本研究期間では規模も影響も小さかったため,選択された治療方針やその成績に統計学的有意差を認めなかった.
本研究は英国Manchester大学Dr Harry VM Spiersを研究責任者とする国際多施設共同研究CHOLECOVID(40ヶ国,255施設,9,875症例を集積)に参加しJapan national leadとして指名された巌と共に,当院のデータのみを独自に解析したものである.本稿は「COVID-19パンデミックによる当院での急性胆嚢炎診療への影響」太田総合病院学術年報2021年56号P11~18に掲載される原著論文の一部を抜粋しており,転載の許諾を得ている.

 
利益相反:なし

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文献
1) Okamoto K , Suzuki K , Takada T , et al.: Tokyo Guidelines 2018:flowchart for the management of acute cholecystitis. J Hepatobiliary Pancreat Sci, 25:55-72, 2018.
2) Menahem B , Mulliri A , Fohlen A , et al.: Delayed laparoscopic cholecystectomy increases the total hospital stay compared to an early laparoscopic cholecystectomy after acute cholecystitis:an updated meta-analysis of randomized controlled trials. HPB(Oxford), 17:857-862, 2015.
3) AL-Jundi W , Cannon T , Antakia R , et al.: Percutaneous cholecystostomy as an alternative to cholecystectomy in high risk patients with biliary sepsis:a district general hospital experience. Ann R Coll Surg Engl, 94: 99-101, 2012.
4) Royal College of Surgeons of England. Updated Intercollegiate General Surgery Guidance on COVID-19. Royal College of Surgeons of England, London, 2020 [updated 5th Jun 2020]. Available at: https://www.rcseng.ac.uk/coronavirus/joint-guidance-for-surgeons-v2/ [accessed 16th Apr 2021].
5) Simone BD , Chouillard E , Saverio SD , et al.: Emergency surgery during the COVID-19 pandemic:what you need to know for practice. Ann R Coll Surg Engl, 102:323-332, 2020.
6) Charlson ME , Pompei P , Ales KL , et al.: A new method of classifying prognostic comorbidity in longitudinal studies:development and validation. J Chronic Dis, 40:373-383, 1987.
7) Dindo D , Demartines N , Clavien PA : Classification of surgical complications:a new proposal with evaluation in a cohort of 6336 patients and results of survey. Ann Surg, 240: 205-213, 2004.
8) Yokoe M , Hata J , Takada T , et al.: Tokyo Guidelines 2018:diagnostic criteria and severity grading of acute cholecystitis. J Hepatobiliary Pancreat Sci, 25: 41-54, 2018.
9) 新型コロナウイルス感染症対策.“新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の概要” https://corona.go.jp/news/news_20200421_70.html,(参照 2021-04-16)

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