日外会誌. 122(5): 565-567, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(3)「≪緊急特別企画≫パンデミック状況下における外科診療と教育」
4.手術管理部門におけるCOVID-19の感染対策の経緯について
1) 国立国際医療研究センター 外科 山田 和彦1)2) , 原 徹男2) , 林 由香2) , 山元 佳3) , 小関 満4) , 荘司 路4) , 杦木 優子5) , 笹原 合加5) , 望月 綾乃6) , 権堀 千春6) , 須貝 和則6) , 國土 典宏1) (2021年4月9日受付) |
キーワード
COVID-19感染, 手術室, 感染対策, PCRスクリーニング, 感染症手術
I.はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延感染時における待機手術での感染率の高さや陽性手術の周術期死亡率の高さが報告され1),外科医はより慎重な対応を求められることになった.日本外科学会からの提言を参考に急を要しない手術は延期し,感染に対する厳密なスクリーニングが必要となった2).今回,手術室を中心としたCOVID-19の感染対策の経緯とCOVID-19陽性症例に対する手術の対応について報告する.
II.感染対策の経緯
1,多職種によるPCRスクリーニングチームによる感染対策
関係する部門において(診療科,手術部,検査部,感染予防対策チーム,看護部,事務)定期的なミーティングを行い,状況の変化に対応した検査方法や職員への周知を行った3)
4).
2,COVID-19感染のスクリーニング
COVID-19感染に対して,手術症例はPCRスクリーニングチームを中心に,様々な感染スクリーニング対応を行い,改変しながら3),最終的には2020年12月からは全入院症例を対象としてPCRスクリーニングを行ってきた(図1).通常は入院の5~7日前にPCR検査を行い,入院前にはPCR検査の結果が判明し,病院内への持ち込みを防ぐことができた.緊急入院等はフィルムアレイを用いた迅速検査が行われ,1,2時間で結果が判明した.
3,感染スクリーニングの結果
2020年5月13日から2021年2月19日まで5,101例のPCRスクリーニング検査を行い,術前PCR検査での陽性例は9例であった.全て手術や入院までに判明し,手術の延期などの対応を取ることができた.フィルムアレイ法でも数例の陽性例を認めたが,手術室への持ち込みはなかった.また手術後にCOVID-19の感染が判明した報告例もなかった.
III.Post COVID-19に向けて
1,感染症例の受け入れ(図2)
感染対策と並行して,COVID-19陽性手術を行うシミュレーションから実際のCOVID-19陽性の外科治療を開始した.COVID-19陽性の手術症例の受け入れに関しては,救急外来,感染症病棟,手術室,ICUなどの調整が必要であり,実際の搬入ではタイミングが合わず,受け入れできない症例も認めた.その後COVID-19感染の既往を有する手術症例が増えるにつれ,CDCのガイドラインを参考にしつつ図2のフローを作成して運用している.当初COVID-19感染症例の周術期死亡が高いことが報告されており1),できれば感染性が低下するまで待機が原則であったが,出産など緊急を要する症例に関しては,陰圧室を使用した.さらに,COVID-19陽性の既往がある症例に関しても,一定の期間をあけて感染の兆候がない症例から手術を開始した.ただし,そのデータは未だ少なく,感染後時間を経過してもPCRが陰性にならない症例もあり,感染症内科とも相談の上,適切な感染防御策を取りながら手術を行っている.
2,COVID-19陽性症例を経験して
COVID-19陽性例の手術を経験することで,様々なことがわかるようになり,今後の手術に応用できるようになった.具体的には,PPE(Personal Protective Equipment)やPAPR(Powered Air-Purifying Respirator)の準備(多くのスタッフが関わるので材料も多くなる),ゾーニングの工夫,動線の確認(入口や出口の制限),手術時間帯の調整,外回り看護師の増員,COVID-19手術カートのコンパクト化,各役回りに対するアクションカードの運用などが有用であった.
IV.おわりに
市中の感染状況に応じて,スクリーニング方法を改変しながら,検査体制を拡充させた.今後も変異株により感染の状況は変化することが予想され,柔軟な対策を考えていく必要がある.しかしながら,感染の蔓延や緊急事態宣言などの影響で,新患症例の減少に繋がり,手術症例の増加には至らず,財政的な問題は課題が残る.
利益相反:なし
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