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日外会誌. 122(5): 558-560, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「≪緊急特別企画≫パンデミック状況下における外科診療と教育」
2.COVID-19感染状況下における外科医が地域医療,病院のために果たすべき責務

中東遠総合医療センター 外科

宮地 正彦

(2021年4月9日受付)



キーワード
COVID-19感染, 病院統合, 初期研修医, 院内感染, 病院連携

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I.はじめに
静岡県の人口は360万人と10番目に多いが10万人当たりの医師数は40番目と少ない.最近2年間の人口当たりの外科専攻医数は42番目と少なく,今後さらに外科医不足が懸念される.当院の立地する中東遠圏域は県内で最も医師の少ない圏域である.当院は2013年5月に医師不足により掛川市立総合病院と袋井市立袋井市民病院が全国で初めて自治体主導で統合してできた500床の総合病院である.筆者が4年前に着任し,統合しても続く医師不足を解消するために教育に力を注いだ.その結果,開院当初はマッチング中間報告の第一希望者が12人枠に対し8名前後であったが,2018年度から14人枠と増枠し,第一希望者も増加し,3年連続フルマッチし,しかも医師国家試験に全員合格した(図1).研修医の増加とともに,専攻医も増加した.開院から5年間は外科を選択する専攻医はいなかったが,その後は2名の外科専攻医が誕生し,来年度にさらに1名が外科専攻医になる予定である.1年後には心臓外科を開設し,外科の基幹プログラム獲得が可能になると考える.
前述のように病院が統合し,研修医,専攻医を増加させることで地域の救急診療,一般診療のパワー,質が向上した.経営面では開院年度は12億円の赤字であったが,6年目で1億円黒字化した.このような状況においてCOVID-19感染禍を迎えた.

図01

II.COVID-19感染第1波(2020年2月から6月)の状況と外科診療
当院は2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号の感染者を受け入れ,その後も地域の感染者とともに,医療体制が脆弱な静岡県東部からの感染者を最も多く受け入れた.県内感染者は75名で当院に13名が入院した.感染者に対して積極的に対応したため,風評被害が強く,検査,手術を拒否する患者が多かった.また院内感染予防として,不急の手術を延期し,呼吸器外科の待機的手術は中止したこともあり,病院全科の手術件数は2.1%,全身麻酔件数は16.9%減少した.外科の手術件数は18.8%,全身麻酔件数は14.2%減少した(図2).5月からは全身麻酔患者には術前2週間の自宅待機と3日前にPCR検査と胸部CTを行い,COVID-19感染を否定し,入院,手術を行う体制をとった.病院収益は9.9%減少したが,外科収益に変化はなかった.

図02

III.COVID-19感染第2波(2020年7月から10月)の状況と外科診療
7月から始まった第2波では県内感染者は580名ほどであったが,宿泊施設での収容が可能となり,また軽症者がほとんどであったため,入院感染者は少なく,当院入院数は31名で30名が軽症者であった.この期間も院内感染対策を行いつつ,延期した手術を積極的に行った.この頃から手術不能進行消化器癌例が多くなった.病院全科の手術件数は2.6%増加し,全身麻酔件数は2.8%減少した.外科の手術件数は11.7%,全身麻酔件数は9.3%減少した.外科の手術件数は他の外科系科の回復より遅れていた.病院収益は2.8%と減少幅は小さくなったが,外科収益は2.4%減少した.外科収益の減少は手術件数の減少が続いたことによると考える(図2).

図02

IV.COVID-19感染第3波(2020年11月から2021年2月)の状況と外科診療
11月からの第3波は2月18日までに4,270名と第1波の50倍,第2波の7倍の感染者数で重症者は57名(1.33%),死亡者数は90名(2.11%)と非常に多くなった.当院は113名の感染者を受け入れ,重症者は8名(県東部からの搬送4名を含む)であった.感染者対応病床35床中,最大20床(57%)を使用しつつ,一般診療も制限なく行った.
病院全科の手術件数は6.8%増加し,全身麻酔件数も4.4%増加した.外科の手術件数は8.8%,全身麻酔件数は4.2%減少したままであった.消化器内科医師が少なく,内視鏡検査数が増加しなかったことも影響したと考える.病院収益は5.3%と第2波より減少し,外科収益は10.3%と大きく減少した(図2).

図02

V.手術件数と収益
第1,2波より第3波で手術件数が回復,増加したにも関わらず,病院収益,外科収益が減少した理由の一つは入院診療単価の減少,つまりは大きな手術件数が減少したことによる.前年度と比べて,呼吸器手術50%,乳腺手術33%,大腸手術17%,胃手術16%減少した.悪性疾患の手術数が減少したが,若手外科医,研修医が執刀できるヘルニア手術,虫垂切除術,胆嚢摘出術が減少しなかったことは,外科医教育の面からはせめてもの救いであった.

VI.COVID-19感染禍における外科医が果たすべき責務
COVID-19感染禍で診療自粛,検査制限により,進行癌で発見される癌患者が急増している.外科医は院内感染対策を行い,手術を適切に施行してゆくことが地域医療,病院運営を支えることに貢献する.さらに若手外科医を教育することこそ,継続して行うべきである.
専攻医募集のある県内総合病院23病院中14病院(61%)で外科系医師が管理者または病院長である.筆頭演者が報道番組で県医療行政,当院の状況を説明し,当院への風評被害が悪化したが,複数回出演することで,かえって風評被害は減少し,行政との関係が良好となり,県民も地域病院の重要性を理解してくれるようになった.病院長が正しい地域医療の状況を説明し,望ましい方向への世論形成に参画することが必要と考える.

VII.おわりに
当院は二つの自治体病院を統合することで,病院の機能が高まり,地域だけではなく,静岡県の医療に貢献できるまでに成長できた.COVID-19感染禍においても外科医が躍動することで,病院,地域医療に貢献できると考える.

 
利益相反:なし

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