日外会誌. 122(5): 510-512, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(1)「各領域から考える外科専門医制度」
1.再掲:外科専門医のグランドデザイン
1) 名古屋大学 消化器外科 小寺 泰弘1) , 高見 秀樹1) , 北川 雄光2) , 池田 徳彦3) , 平野 聡4) , 森 正樹5) (2021年4月8日受付) |
キーワード
外科専門医, 日本専門医機構, サブスペシャルティ, グランドデザイン
I.はじめに
2018年度より新専門医制度における研修を開始した外科専門医は現時点で外科領域では唯一の機構認定専門医であり,今後日本専門医機構(以下,機構)が認定し,以後の更新も行う.そして,それに追従して消化器外科,心臓血管外科,呼吸器外科,小児外科,乳腺外科,内分泌外科の六つのサブスペシャルティ(以下,サブスペ)領域が機構認定専門医となる見込みである.一方,旧制度による外科専門医は現時点では機構の専門医制度に組み込まれることで合意に至っておらず,各学会の規則に従って認定,更新される学会認定専門医の一つという位置づけになっている.また,6サブスペ領域の専門医以外に外科医が取得可能な専門医は多数存在するが,これらもすべて現時点では学会認定専門医であり,どれが将来機構の承認を受けて機構認定専門医に移行するのかは未定である.日本外科学会では新専門医制度発足に際し,機構認定専門医を3階建構造のピラミッドに配置したグランドデザインを策定した(URL http://www.jssoc.or.jp/procedure/specialist-new/info20180413.html).本稿ではこのグランドデザインを基本として日本外科学会が目指す専門医制度の行方について解説する.
II.外科系新専門医制度のグランドデザインにおけるメインストリーム
機構の発足以来,日本外科学会は基本領域の一つとして新たな外科専門医制度の確立に尽力してきた.機構からは当初より強固なプログラム制による研修制度を設立するよう指示されており,すべての専攻医が6サブスペ領域毎に必要数が規定された手術を含む総計350件の手術を3年間で経験して外科専門医を取得できるよう,症例数,指導医数などから専攻医の定員が緻密に計算された研修プログラムが日本中で作成された.研修プログラムは基幹施設と一つ以上の連携施設からなる病院群であり,専攻医は複数の病院をローテートして多彩な経験を積むことになる.ここで取得する外科専門医がグランドデザインの1階部分となり,さらに1年以上かけてサブスペ領域の必要症例数を満たすべく手術経験を積むことにより2階部分のサブスペ領域専門医を取得することができる.3階部分はさらに細分化された臓器別領域の知識・技能や手術手技に特化した技能を身につけて取得するものであり,最終的には3階部分の取得を目指して研鑽を積むことが外科系専門医制度のメインストリームであることを示す太い矢印がグランドデザインを示す図の左側に描かれている.将来的には上位階のサブスペ領域専門医を取得できた暁にはインセンティブがつくこともイメージしたグランドデザインであり,特に6サブスペ領域専門医取得後に挑戦することになる,3階部分に相当する難度が高い専門医制度が存在する領域では多くの外科医が高いmotivationをもって専門医取得を目指している状況にある.
III.横断的領域
一方,図の右側に点線で外科専門医とつながっている横断的領域専門医というものがある.これは外科学以外の分野を含み,様々な分野で活躍してきた外科医のキャリアパスにこれまで通りの幅を持たせるためのものである.外科専門医取得後に取得可能なサブスペ領域専門医制度としての妥当性はこれまで外科関連専門医制度委員会の場で横断的領域サイドの学会にプレゼンテーションをお願いし,その場で討議の上で審議してきた.これまでに日本外科学会が承認したのは日本消化器病学会,日本臨床腫瘍学会,日本感染症学会,日本消化器内視鏡学会,日本臨床細胞学会の専門医である.こうした学会は今後も増えていくものと考えられ,より深く外科と関わるものとして消化器外科専門医の取得を必須としない日本大腸肛門病学会や心臓血管外科専門医の取得を必須としない日本脈管学会もその候補に挙げられている.今後の横断的領域専門医の審査は,機構の命により新たに設置された外科基本領域サブスペ連絡協議会で行われることになる.その上で必要書類を機構に提出し,機構の承認を経て機構認定専門医となる流れとなる.
IV.サブスペの分類
機構はサブスペ領域専門医を取得するための研修を3種類に分類した.このうち通常研修は基本領域専門医を取得後に開始される研修を指す.連動研修は当初内科,外科のサブスペで提案した研修であり,基本領域専門医の研修中にこれに並行して開始されるものである.補完研修は2階部分サブスペ専門医取得後,あるいはサブスペ専門医取得中からにさらに詳細な内容を補完するために開始する研修である.日本内科学会から提案された16領域のサブスペが医道審議会で承認されるには多くの日数と労力を要したが,最終的に内科専門医取得後に通常研修を経て取得するもの,内科専門医の研修に並行して行う連動研修を経て取得するもの,サブスペ領域専門医取得後に補完研修を経て取得するものという3種類に分類することで辛うじて承認を取り付けた感がある.これらは各々外科専門医のグランドデザインにおける横断的領域,2階部分,3階部分の専門医に相当すると考えられる.しかし,機構としてはこれら3種類のサブスペをすべて横並びと捉えており,多くの努力を要する3階部分を特別なものと評価していない点が,グランドデザインのコンセプトに合致していない.ただし,日本内視鏡外科学会の技術認定制度が学会認定にとどまる意向であることから,3階部分と想定される専門医制度は日本食道学会の食道専門医,日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医など消化器外科領域にしか存在せず,現時点では他のサブスペ領域が3階部分を2階部分より上位に位置付けることにこだわる理由がないのも事実である.一方,今回連動研修を許されなかった内分泌外科専門医は日本外科学会のグランドデザインでは堂々たる6サブスペの一つと位置付けられているが,通常研修を経て取得されるという点で横断的領域専門医のような位置づけと解釈されかねない点は容認しがたく,なるべく早い機会に連動研修が可能な専門医制度と認定されることを望むところである.
実際に機構認定専門医になっても特にインセンティブがつかないわりに手続きが煩雑であること,現状のままでも多くの肝胆膵外科医が懸命に高度技能専門医の取得を目指していることなどから,日本肝胆膵外科学会は性急に機構認定専門医を目指すことはせずに事態を静観する意向を示している.このような情勢から,日本外科学会としても6サブスペ以外のサブスペの扱いが曖昧である現状で,広範囲にわたる専門医制度を機構認定専門医として申請することについては慎重な立場を取っており,特に3階部分の構築については喫急の課題とは考えていない.
V.おわりに
本稿では触れていないが専門医制度は更新要件をめぐって課題を残しており,日本外科学会の旧来の専門医が機構認定専門医に移行するかどうかも決まっていない.ただし,2018年度以降に新専門医制度下で研修を開始した若手は機構認定専門医になるわけで,その制度設計は極めて重要な課題である.グランドデザインの通りの理想的な外科専門医制度が完成するには,まだ様々な調整と時間を要する見通しであるが,機構との相談の機会は限られるので,ひとつひとつの課題をタイムリーに解決する必要がある.
利益相反:なし
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