日外会誌. 122(5): 513-516, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(1)「各領域から考える外科専門医制度」
2.消化器外科領域から考える外科専門医制度とサブスペシャルティ専門医制度
1) 弘前大学 消化器外科 袴田 健一1) , 北川 雄光2) (2021年4月8日受付) |
キーワード
外科専門医像, 消化器外科専門医制度, 外科専門研修プログラム整備基準
I.はじめに
2018年4月に新たな外科専門医制度がスタートし,今年新外科専門医が誕生する.外科専門研修カリキュラム整備基準に示された研修内容と到達目標は,旧制度のカリキュラムを踏襲した形式だが,外科専門医像や到達目標については,今後とも議論が必要である.本稿では,2020年から運用が始まった新しい消化器外科専門医制度の概要を紹介し,消化器外科領域の視点から外科専門医に求められる研修内容と到達点について検討する.
II.新しい外科サブスペシャルティ専門医像
一般に,領域別や臓器別専門医では,専門性が高いほど専門医像は明確になる.しかし,求める資格水準が高度になりすぎると取得率が低下して医療の均てん化に問題が生じる.そのため,専門医の認定には適切な水準設定と修練の継続が必要である.
このサブスペシャルティ専門医の認定水準,すなわち医師像については,制度導入の議論の早期に外科サブスペシャルティ間で意見交換が行われ,「指導医の下で,それぞれのサブスペシャルティ領域の標準的外科診療を主体的に実践できる医師で,多くの専攻医が卒後7~8年程度で取得できる水準」とすることとなった.また,その後の議論で「最短4年の修練で取得できる資格」となった.
III. 2020年の消化器外科専門医制度改定
消化器外科専門医についても,卒後7~8年程度で取得できる要件を検討するため,様々な実態調査が行われた.特に,NCDデータを活用した卒業年次別手術経験数の分析では,卒後7~8年までの間は低難度,中難度手術の術者と助手を多く経験し,卒後5年目頃から高難度の助手を経験し,10年目以降に術者を多く経験する実態が確認された.そこで,卒後7~8年の消化器外科医の到達目標としては,手術技術については中,低難度手術の術者と助手,高難度手術の助手を担える水準,知識については高難度手術の周術期管理を含む消化器外科全般の最新知識の修得とした.さらに,内視鏡外科手術の増加に伴う専攻医の手術経験の変化を加味して,新たな消化器外科専門医像に呼応した手術技術要件を設定した(表1)1).
また,知識水準については,新たに公式テキストを作成して消化器外科専門医が修得すべき知識の広さと深さを明示した.総論では,消化器外科としての専門性が高い消化器がん診療や栄養管理,周術期管理に重点をおき,各論では消化器外科診療の高度な内容まで,最新知識を網羅している.本年度は例題集を発行して専攻医の知識修得を後押しする.
このような専門医制度の整備を踏まえて,2020年からは専門医試験の合格判定方法を相対評価から絶対評価に変更した.さらに,今年度からはCBT試験を導入する.
IV.消化器外科領域から考える外科専門医像
基本領域としての外科専門医制度は,扱う領域の範囲の広さ故に,修練内容と到達目標,すなわち専門医像の設定が難しい.実際に,現在の整備基準で示された研修項目には,初期臨床研修やサブスペシャルティ専門研修が主たる研修期間となる項目も含まれている.そこで,当講座の若手・中堅教室員(外科専攻医・消化器外科専攻医ならびに消化器外科専門医取得者)の協力を得て,外科専門研修項目の主たる修練時期について検討した(表2).外科専門研修の到達目標は,専門的知識と技能について修得すべき具体的な内容が明示されており,各項目の主体となる研修期間を合議による3段階の評価で示している.
専門的知識については,例えば手術に必要な解剖知識や外科病理や腫瘍学,周術期管理,リスク評価は外科専門研修を通過点として,消化器外科専門医取得以降も次第に修得度が増す項目であるのに対して,集中治療や救急外科の項目は外科・消化器外科専門研修がピークで,その後修練の機会は減ることから,外科専攻医の到達目標としても評価すべき項目と言える.
技能については,一般的に経年的に修得度が増し,消化器外科専門医の到達度とすべき項目が多いが,一方で,全身麻酔の修練は初期研修が中心,外科的クリティカルケアの基本的手技は外科専門研修,周術期管理の多くは外科・消化器外科連動研修の意義が高く,これらは外科専門医の到達目標として重要と思われた.手術手技は経年的に経験数が向上するため,外科専門研修として一定の水準設定が必要であり,350例の手術と120例の術者経験は外科専門医の医師像を示す一つの技術水準となる.他領域の外科手術経験は,外科専門研修ならではであり,経験値として重要である.
以上をまとめると,外科専門医が修得すべき知識と技能のコアな部分は,集中治療や救急外科の十分な専門的知識,外科的クリティカルケアと基本的周術期患者管理の診療技能となり,これらの基本的診療が十分に行える水準の医師が外科専門医の医師像となる.一定数の手術経験と外科全領域の診療経験は,専門医資格取得のための経験値として重要であるが,資格更新要件としては,外科専門医像の維持に必要なコアな知識の修得の機会(=学会参加,発表,講習等)と技術(=NCD手術登録)を検討すべきである.
V.おわりに
今後,専門医の更新要件やサブスペシャルティ制度の運用についての議論が進むものと思われるが,その際に最も重要な視点は,外科専門医の医師像である.外科専門医は何ができるのか,どの程度のことができるのか,そのためにはどのような修練が必要なのか.制度変化や時代変化の中で,このことを絶えず問いながら制度構築を行う必要がある.
利益相反:なし
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