日外会誌. 122(5): 506-509, 2021
手術のtips and pitfalls
大腸全摘・回腸嚢肛門吻合手術における回腸嚢と肛門を確実に吻合するための肛門操作の工夫
東京大学 腫瘍外科 江本 成伸 , 石原 聡一郎 |
キーワード
回腸嚢肛門吻合, 経肛門吻合
I.はじめに
肥満・狭骨盤,回腸間膜の短縮した症例などでは,回腸嚢(パウチ)の肛門への到達が困難な場合がある.ここでは肛門操作において,当科で行っている工夫を述べる.
II.肛門の展開の工夫
麻酔科医に筋弛緩を十分にかけてもらう.ローンスターリトラクター(ユフ精器,東京)などを用いて肛門を均等に展開する(図1).針糸をかけて肛門縁を牽引する方法もある1).
III.粘膜抜去における工夫
粘膜下に10万倍ボスミン生食を注入する.肛門陰窩を切除側に含めて粘膜切除を開始し,内肛門括約筋を損傷しないように肛門管上縁まで粘膜下層の剥離を行う(図2).
IV.吻合における工夫
回腸嚢の先端を肛門へ誘導し,内肛門括約筋へ固定する.最も肛門に近い場所を吻合部と定めることが重要である.このため,回腸嚢作成時は,吻合器を回腸嚢中央から挿入し,先端に穴を開けずに作成するようにしている(図3).回腸嚢を,内肛門括約筋に12時,3時,6時,9時の4方向にしっかりと縫合固定する(図4).結紮も緩まないように,また組織が裂けないように慎重に行う.腹腔側より回腸嚢を把持し,牽引し続けてもらう.特に腹腔鏡ではこの操作は難しく,回腸嚢を損傷しないよう注意する必要がある.腹腔鏡下に回腸嚢の肛門への到達が難しい場合には,開腹へconversionして,用手的に回腸嚢を牽引することも考慮する.ある程度吻合が進むまで牽引を続ける.次に,回腸嚢の先端を切開し,肛門と吻合する.45度ずつ均等にまず8針縫合する.回腸嚢全層→内肛門括約筋→粘膜抜去開始部→回腸嚢全層と,マットレス縫合を行っている.8針の間を2針ずつ縫合(全層またはマットレス縫合)し,全周で24針の吻合が完了する(図5).
V.吻合後の工夫
回腸嚢内の減圧および吻合部狭窄の予防のため,20Frのフォーリーカテーテルを肛門より回腸嚢に挿入し,臀部に縫合固定している.固定水は3 mlとし,術後2週間で抜去している.当科では全例でcovering stomaを作成している.
VI.おわりに
肛門操作の工夫について概説した.このような工夫を行っても,どうしても回腸嚢が肛門に届かない症例は存在する2).粘膜抜去を開始する前に回腸嚢の到達性を確認することが大切であり,到達不可能と判断され,回腸嚢肛門管吻合が術式として許容される場合には術式変更も検討する.技術的に,あるいは炎症や合併する腫瘍に対する治療の観点から安全な吻合・再建が困難な場合は,永久人工肛門を考慮する.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。