日外会誌. 122(3): 292-293, 2021
理想の男女共同参画を目指して
女性外科医のキャリア形成と妊娠・出産
東京女子医科大学 心臓血管外科 冨澤 康子 |
キーワード
外科, ワーク・ライフ・バランス, 女性医師, 臨床研修制度
I.はじめに
医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省)では,外科を選択する医師は減少傾向にあるが,女性では増加している.そのため,若い女性外科医が妊娠・出産し,継続就労し,キャリア形成するために必要な規則・制度が,国や学会などの意思決定機関に女性が少ないために抜け落ちていることが多い.
II.医師臨床研修制度
2020年からの医師臨床研修制度は“シームレス”を目指していて(https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000528527.pdf),人生において起こることがある「妊娠・出産,介護,怪我」などの重大事項に関しての記載がない.研修中に病気,怪我,妊娠・出産,介護などが起こらないことになっているように見える.
厚生労働省の2020年度版「医師臨床研修指導ガイドライン」(www.mhlw.go.jp/content/10800000/000496242.pdf)の,「第5章 研修医の労務環境」に,「研修医は労働者であり,その労働については各労働法規の適用を受ける」とある.ところが,「2.女性医師のための勤務環境の調整」には,妊婦や産婦の労働基準法や男女雇用均等法などの就業制限,措置などが具体的には書かれておらず,「~確認する」や,「~伝える」,「~理解を深める」などと書かれている.
III.専門医資格取得と産む時期に関する考え方
菅政権は不妊治療に力をいれるようだ.少子化対策としては反対しないが,若いときに産める社会をまず,目指すべきではないか.また,産休明け保育が理由で,医局人事が影響されることがあり,産休の保証およびその後の復帰も大事である.
2013年の第6回日本女性外科医会(JAWS)勉強会で,安達知子先生は講演「高齢出産と不妊治療の現状」の中で,日本産科婦人科学会HPの2009年のART(assisted reproductive technologies)成績を示した(http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/20121017data3.pdf).年齢と,妊娠率,生産率,流産率のグラフでは,母親が30歳より前では生産率は20%を維持し,40歳になると生産率は8%に低下した.この生産率には400gの未熟児も含まれている.
日本外科学会会員を対象にした調査では,回答者の78%に子供がおり,男性は女性よりも子供を持つ割合が多く(89%対65%),子供がいる医師では,子供の数は男性の方が女性より多かった(2.16人対1.68人)1).女性医師の中にはキャリアと出産時期について悩んでいる人は多い.もう一人,あるいはもっと産みたいと思っても,産める期間は限られている.
日本医師会会員を対象とした調査2)では,出産経験のある5,289名のうち,産前・産後休暇を取得“した”4,514名(88.1%),“しなかった”726名(13.9%)であった.この調査で,取得しなかった理由(複数回答)は,「制度がなかった」207名,「職場で取得しづらい雰囲気がある」122名,「その他」336名,などであった.「その他」の具体的な内容では,「学生・大学院生・研修医・留学中だった」86名で,これには研修医が含まれている.勤務状況では,短い休暇を取った,制度外で欠勤した,などもあった.
2012年のWomen in Surgery Career SymposiumでDr. Steeleは講演“Pregnancy during Surgical Residency”では,「子供を産むのに良い時期なんてあり得ない.あなたと,あなたの家族,あなたの人生にとって良い時期に産みなさい」と述べた.
女性医師では,妊娠・出産と研修や専門医取得等の時期が重なるが,日本でも,研修期間を延ばす,学会が産休や育休についての規則を定め,出張病院から戻ったとしても働いた期間が1年以上ならば産休がとれるように配慮できないものだろうか.
IV.継続就労と病児
社会福祉が発達している国では子供の病気などに際して仕事を休んだり労働時間を短縮したりする権利がある.例えば,スウェーデンでは9歳以下の予供の病気に際しては,親はその都度4日以内の休暇をとる権利がある(平成16年度仙台市男女共同参画推進重点事業による北欧視察調査報告書).日本で保育園児は年間,何日休むかを調べたところ0歳児の病欠日数が最も多く平均19.3日,5歳児同5.4日と,年齢が上がるにつれ休む日数が減少した3).そこで,経済的な理由で病児保育を作りたくないのであれば,日本でも4日休めることにしてはどうであろう.もちろん,上司・上職はマネージメント能力を持たねばならない.
V.働き方の見える化
日本の産婦人科では女性医師が増え,当直が回せなくなった.そこで上司と部下の面談で希望や必要性の認識をすりあわせ,チーム内で自分の区分を周囲に公表して「見える化」し,お互いに忖度しない職場環境を持とうと試みた.徳倉康之氏は「働き方選択パネル」を示した.働く時間(時短,通常勤務,時間外ができるか),当直やオンコールが可能か,給料,キャリア形成をどう考えるかなどの多様性がある4).
VI.おわりに
女性医師が継続就労しキャリア形成するためには自己の努力と職場の同僚の協力には限界がある.国や学会などの意思決定機関に女性を増やし,多様性のある考え方を取り入れていただきたい.
利益相反:なし
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