日外会誌. 122(2): 153-159, 2021
特集
肝胆膵領域腫瘍におけるBorderline resectable/Marginally resectableとは
―術前治療の可能性について―
4.転移性肝癌
熊本大学病院 消化器外科学 北野 雄希 , 今井 克憲 , 林 洋光 , 山下 洋市 , 馬場 秀夫 |
キーワード
大腸癌肝転移, Borderline resectable, 術前補助化学療法
I.はじめに
世界的に大腸癌は増加の一途をたどっており,年間約180万人の新規罹患者と80万人の死亡者数を認めている.肝臓は大腸癌の転移巣として最も頻度の高い臓器であり,大腸癌の死因の約3分の2が肝転移によるものとされている1).大腸癌と診断された時点で約20%の症例に肝転移を認め,大腸癌患者全体で半数以上がその経過中に肝転移を認める.大腸癌肝転移は転移巣の切除により長期予後もしくは根治が望める数少ない癌腫の一つであり,切除により約25~74%の5年生存率が得られる2).しかし肝転移の診断時に切除の適応となる症例(Initially resectable)は20%程度に過ぎず,残りの症例は切除不能例(Initially unresectable)として,肝切除への移行を目的とした化学療法(Conversion therapy)や,palliativeな化学療法を行うこととなる.肝外病変のない大腸癌肝転移は,未治療であれば生存期間は1年以内,化学療法の進歩が目覚ましい現代においても,化学療法のみでの5年生存率は極めて低く,大腸癌肝転移症例において長期予後を得るためには,症例毎に根治的肝切除を目標とした治療戦略を立てる必要がある.膵癌においてはInitially resectable,Borderline resectable,Initially unresectableは明確に定義され3),様々な臨床試験よりその治療方針はガイドライン上にも明記されているが,大腸癌肝転移においてはBorderline resectableに関する明確な定義や治療方針は決まっていない.本総説では,Initially resectableやInitially unresectableに加え,現時点で未だ明確な定義がされていない,Borderline resectableに焦点を当てて,大腸癌肝転移の治療戦略について論じる.
II.大腸癌肝転移のResectability~過去からの変遷~
1970年代より大腸癌肝転移に対する肝切除の報告が始まり,肝切除による予後改善効果が注目された.Stephenらは60人の大腸癌肝転移症例に対し肝切除を施行し,非切除群と比較し有意に全生存率が良好であることを示した(5年生存率;28% vs. 0%,P<0.05)4).その後,大腸癌肝転移切除後の予後改善のため予後予測因子の検索が多施設で行われ,年齢,原発巣のstage,同時性肝転移,肝転移腫瘍径,肝転移個数,両葉多発,切除断端,CEA値等が肝切除後再発の予測因子として報告された5).特に,Fongらは,肝切除を施行した大腸癌肝転移症例1,000例以上において,肝外病変あり,肝切除断端陽性,原発巣リンパ節転移陽性,同時性(<1年)肝転移,多発(>1個)肝転移,最大径>5cm,CEA>200ng/mLが独立した予後不良因子となることを示し,後者五つのrisk factorの個数別の5年生存率を示し(risk factor 0:60%,1:44%,2:40%,3:20%,4:25%,5:14%),特に前者二つ(肝外病変あり,肝切除断端陽性)に関しては明らかに肝切除後の再発や生存率が不良であることから,これらの症例に対する肝切除は禁忌と述べている5).これらのrisk factorを有する症例は,技術的には切除可能であるが明らかに予後は不良であるため,いかにこのような症例の予後を改善していくかが課題とされた.
1990年以前は5-FU/LVが唯一の大腸癌肝転移に対する抗腫瘍薬であったが,1990年以降オキサリプラチンやイリノテカンが使用可能になり,2剤併用療法(FOLFOX,FOLFIRI)による治療が標準となった.2000年代に入り抗VEGF抗体や抗EGFR抗体に代表される分子標的療法や,5-FU/LV,オキサリプラチン,イリノテカンによる3剤併用療法(FOLFOXIRI)の出現により,上記のような予後不良因子を有する大腸癌肝転移の治療戦略・成績が大きく変わっていく6).Paul Brousse Hospitalからの報告では,肝外転移を有する症例であっても,肝切除および肝外転移巣の切除を行うことにより19%の5年無再発生存率を得ることができ,これは肝外転移のない症例と比較しても遜色ないものであるとしている7).肝外転移の無い症例に対するR1切除に関しても18%の5年無再発生存率を得ており,特に化学療法が奏功した症例は,50%以上の5年生存率を得ることができたと報告している8).さらに,技術的に根治切除が不可能と思われてきた症例に対しても,門脈塞栓術(portal vein embolization:PVE)9),局所凝固療法10),二期的肝切除(Two-stage hepatectomy:TSH)11),ALPPS(associating liver partition and portal vein ligation for staged hepatectomy)手術12)のような特殊手技を併用することで,根治切除が可能となる.近年の目覚ましい化学療法とこのような特殊手技の発展に加え,Multidisciplinary teamによる適確なmanagementを行うことでresectabilityを向上することが重要とされた.大腸癌肝転移の国際的登録システムであるLiverMetSurveyは,世界71カ国326施設の25,000例を超える症例を解析し,Initially resectable症例の肝切除後の5年生存率は46%であるのに対して,Initially unresectableの症例でも,肝切除を施行できれば32%の5年生存率が得られると報告しており,集学的治療による長期生存もしくは根治が期待されると述べている13).
III.大腸癌肝転移のResectabilityにおける現状
これまで大腸癌肝転移のresectablityに関しては,Initially resectableとInitially unresectableの大きく二つに区分され,Borderline resectableに関しては詳しく言及されてこなかった.2016年のASCO annual meetingでは,大腸癌肝転移はInitially resectable,Borderline resectable,Initially unresectableの三つの状況に区分されたものの,詳細な定義に関しては明記されていない.Initially resectableに対しては,術前化学療法なしの手術(可能な限りParenchymal-Sparing Hepatectomy)を推奨している.Borderline resectableは,根治切除の可能性を有しているが,Upfront resectableと比べ,technicalまたはoncologicalに安全な根治切除が困難な症例とされ,FOLOFOXやFOLFIRIなどの2剤併用療法+Bevacizumabの術前補助化学療法施行後の肝切除を推奨している.Initially unresectableについては,FOLFOXIRIによる3剤併用療法+KRAS変異に応じた分子標的薬併用によるConversion therapyが推奨されている14).
2016年のESMOのガイドラインでは大腸癌肝転移に対する根治的肝切除を検討する場合,Technical categoryとOncological categoryの二つの側面からresectabilityを考慮する必要があると述べている15).さらにTechnical categoryを“Easy”と“Difficult”,Oncological categoryを予後の観点から“Excellent”,“Good”,“Bad”に分類し(図1),Technical -“Easy”/Oncological –“Excellent” or “Good”,つまり,特殊技術を必要としない通常の肝切除でR0切除が達成でき,tumor burdenの低い症例をInitially resectableとしている.治療戦略としては,補助化学療法なしのupfront surgeryもしくは,手術前後3カ月ずつの補助化学療法併用の手術を推奨している.Unresectabilityに関しては,A)Technical categoryとB)Oncological categoryに分けて定義し,A)では絶対的非適応として,1)Future liver remnant(FLR)≥30%を担保したR0切除が不可能なことや,切除不能な肝外病変の存在とし,相対的非適応として,2)PVEやTSH,ラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation:RFA)などの局所凝固療法を伴う肝切除を施行してはじめてR0切除が可能になるものや,R1切除を挙げている.B)では,同時性の肝外病変,肝転移個数が5個以上,化学療法中のtumor progressionを挙げ,A)-1もしくは,A)-2かつB)を認めた場合,initially unresectableとした(表1).このような症例は,Conversion therapyを行うか,palliativeな化学療法を行うこととなる.Borderline resectableは,Technicalには“Easy”,つまり特殊技術を要さずともR0手術が可能だが,Oncological categoryの予後不良因子を有する症例と定義され,このような症例はupfrontの手術を行っても再発のリスクが高いため,2剤もしくは3剤併用化学療法の術前化学療法後の肝切除が推奨されている.
IV.大腸癌肝転移における“Borderline resectable”
文献検索ツールPubMedで,“borderline resectable” AND “colorectal liver metastases”で検索すると38編の関連文献が該当するものの,実際にBorderline resectableの内容について詳しく言及している文献は8編のみであった.Borderline resectableの概念は,2007年にVautheyが論説にて,大腸癌肝転移のresectable症例は非常にheterogenousな集団であり,特に肝外病変を有する症例やR1手術になる症例は明らかに予後が悪いため,Borderline resectableとして別の集団として扱うべきだと論じている16).2013年にRP Jonesらは,resectableな大腸癌肝転移であるものの,12カ月以内の同時性肝転移,両葉多発病変,腫瘍個数≥4個,最大径≥5cm,CEA≥100ng/mLをBorderline resectableとし,再発の可能性が非常に高いことが予想されるため,肝切除の前に術前補助化学療法を施行するべきだと述べている17).その後もBorderline resectable大腸癌肝転移に関する報告は散見され,その定義に関しては一定の見解はないものの,ASCOやESMOの報告にあるように,biologicalもしくはoncologicalに悪性度の高い(同時性肝転移,多発,腫瘍径大,CEA高値,肝外病変あり)症例や,technicalに困難(R0切除のためにRFA,PVE,TSHなどの特殊手技を必要とする,主要脈管に近接する)な症例をBorderline resectableとし,8編中7編で術前補助化学療法を,1編が術前と術後4 cycleずつの補助化学療法を施行するべきだと論じている2)
14)
15)
17)
~
21)(表2).8編中予後について論じたものは3編あり,Ichidaらは,Borderline resectableを腫瘍個数≥4個,最大径≥5cm,肝外病変ありと定義し,そのような症例には術前補助化学療法を行った後に肝切除を施行し,よりtumor burdenの低い症例は術前治療なしに肝切除を施行し,予後を比較した.無再発生存率はBorderline resectable群が有意に不良であったが(5年無再発生存率:22.1% vs. 46.5%,HR=1.48 P=0.02),全生存率に有意差は認めず(5年生存率:66.6% vs. 74.0%,HR=1.27 P=0.40),Borderline resectable症例に対して,術前補助化学療法が有効である可能性を示した21).
V.おわりに
これまでの報告より,大腸癌肝転移の“Borderline resectable”はoncologicalに悪性度の高い(同時性肝転移,多発,腫瘍径大,CEA高値,肝外病変あり)症例,もしくはtechnicalに困難(R0切除のためにRFA,PVE,TSHなどの特殊手技を必要とする,主要脈管に近接するなど)な症例と定義され,治療方針としては術前補助化学療法後の肝切除が推奨される.現段階では,膵癌のような明確なBorderline resectableの定義や治療方針は確立されていないが,今後ビッグデータを用いた解析,もしくはBorderline resectable大腸癌肝転移に対する術前補助化学療法の有用性を検討する多施設ランダム化比較試験等を行い,Borderline resectableの明確な定義や治療方針の構築が必要である.
利益相反:なし
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