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日外会誌. 122(2): 135-136, 2021

項目選択

理想の男女共同参画を目指して

日本の外科医が減っている.次の一手は何?

東京女子医科大学 心臓血管外科

冨澤 康子

内容要旨
外科医の減少対策には,選択率ばかりでなく,定着率を改善することが必要である.また,支援される外科医ばかりでなく,支援する側の外科医もワーク・ライフ・バランスが保てることが重要である.最良の方法ではないが,外科が崩壊する前に,定款を変更し,女性代議員を全国区でクオタ制にて選出することを提案する.

キーワード
外科, 会員, ワーク・ライフ・バランス, 専門医, 定着率

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I.はじめに
日本で外科医の減少が指摘されてから長い.日本外科学会の会員数と今後を考えたい.

II.会員数と年齢,働き方
2012年3月1日時点の調査によると日本外科学会の会員の年齢では,40代が最も多く9,894名,30代が8,317名と1,577名も少なかった.そして,40代の女性会員は600名で,30代は1,372名と,40代より772名多かった1).2016年3月3日に開催された厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会第3回医療需給分科会の資料3-2「医師偏在に係る参考資料」No.23で示された「日本外科学会 性・年齢別会員数」のピラミッドでは,この時点で90歳以上の男性会員は379名いて,外科医は長命で高齢化しているように見えた.
平成24(2012)年2月に出された「労働環境に関するアンケート調査および診療報酬改訂後の病院としての勤務医師労働環境改善方策に関するアンケート調査報告書(要約)」は理事を含む外科医労働環境改善委員会委員(男性27名,女性0名)により作成されたが,24時間フルタイムで働ける男性外科医だけを対象とした考え方で質問票を作成してあった.今後の日本外科学会は,妊娠・出産,育児,病児保育,ばかりでなく,介護,治療しながら,また,人生100年時代に備えて働く事が予想され,男女を問わず全ての外科医にあてはまる労働環境や時間に対する配慮がさらに必要となる.

III.外科の選択と定着
医師・歯科医師・薬剤師調査統計(三師調査)から外科の選択率と定着率を調べた研究では新しい知見があった2).2004年の新臨床研修制度が原因で,外科の入局者が減ったわけではなく,それ以前から減っていた.また,「女性医師はすぐ辞める」といわれてきたが,1993年に医籍登録し外科を選択した女性医師では,一度は外科を離れても,また戻って来る人がいた2).すなわち,育児に手がかからなくなり,臨床に復帰したことが考えられた.医学部や医科大学の外科の教授は時間が自由になるからと,女性医師に大学院にいって出産・育児することを勧めるが,大学院にいくと手術に入れてもらえないため症例を経験できず,専門医が更新できにくい.そのため,女性医師は支援策を活用し,臨床を継続し,上司および管理者は支援する側の医師に不公平感を感じさせない方策をたてることが求められる.

IV.三師調査の社会学的解析
三師調査の解析を行った深見論文3)では,今までとはちがった多数の新しい知見が得られている.1996年と2018年の診療科の医師数と医師割合を比較したところ,外科系診療科の女性医師の増加が心臓血管外科7.5倍,形成外科5.8倍,外科群5.5倍,脳神経外科4.6倍と著しかった.また,外科群(注)の男女別人口構成では,男性外科医は若年の供給が少なかったが,女性外科医は,既存の外科医数をほぼ維持したまま,若年が多く供給されていた.さらに,外科群を選択する30代の男女医師割合推移が今後も同様に持続すると仮定し,著者がグラフの欄外に線を延長すると,今から12年後の2032年頃に外科群の30代の男女数が逆転する可能性があると予想される.それまでに外科の働き方を見直し,女性医師がキャリアを形成し,専門医を取得/更新でき,妊娠・出産しても継続就労でき,さらに男女の定着率が良くなる方策を見つけなければ負のスパイラルから出られない.

V.世代は変わっている
子育て中の日本外科学会会員のストレス調査4)では,時間に関してのストレスが多く,自分の時間や子供と過ごす時間が取れないことが問題と感じられた.また,平成30年度版子供・若者白書の図表7をみると世代の考え方が違ってきていることがわかる(https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30gaiyou/s0.html).仕事と家庭・プライベートとのバランスについては,世代の変化が大きく平成29年度調査(全体n=10,000)では仕事よりも家庭・プライベート(私生活)を優先する63.7%,仕事を優先する12.7%であり,平成23年度調査 (全体n=3,000)同52.9% 同17.1%となっていた.すなわち若い医師はワーク・ライフ・バランスの取れる科を選択する傾向にあると思われる.
男性・外科医・教授/部長・高齢といった多様性のない集団で決定してきた結果が,日本外科学会の現在の状態であり,小選挙区制の代議員選挙では多くは投票がなく,欠員がでるほど勢いがない.日本外科学会では2名の女性の理事が2020年に加わったが,ただちに学会が活性化し,魅力的になり,会員数が増えるとは考えにくい.外科医が減っている現実を認め,これまでの延長線上には働きやすい魅力的な未来はないことも認め,ゲームのルール(定款での代議員選出方法,臨床研修制度,専門医取得/更新,妊娠・出産の休暇の取り決め,他)を変えてはどうか.最良の方法ではないが,まずは定款を変更し,女性代議員を全国区でクオタ制にて選出する.要望書をだし,記者会見をするといった他力本願よりは,効果が期待できると思う.

VI.おわりに
10年後に備えようとする多様性のある柔軟な考え方がなければ,外科の存続は難しいと思う.
注)「外科群」の定義は日本医師会総合政策研究機構(2018)による.

 
利益相反:なし

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文献
1) Tomizawa Y : Women in surgery:little change in gender equality in Japanese medical societies over the past 3 years. Surg Today, 43: 1202-1205, 2013.
2) Tomizawa Y , Miyazaki S , Matsumoto T , et al.: Selection of and retention in surgical specialty during early career in Japan. Tohoku J Exp Med, 252: 95-102, 2020.
3) 深見 佳代 :女性医師の活躍を阻むものはなにか.日本労働研究雑誌,42-51,2020.
4) 冨澤 康子 , 萩原 牧子 , 野村 幸世 ,他:育児中の日本外科学会会員の仕事とプライベートのストレス:働くドクターストレス調査結果から.東女医大誌,90:30-37,2020.

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