日外会誌. 122(2): 133-134, 2021
先達に聞く
ポストコロナ時代における外科専門医制度の使命―施設集約から働き方改革へ―
日本外科学会名誉会長,大阪大学名誉教授 松田 暉 |
2020年は新型コロナウイルス感染の蔓延で2月以降秋に至るまで学術活動にも大きな影響を与え,120年の節目を迎えた日本外科学会学術総会もオンライン開催になりました.この投稿が皆様に届く頂く頃には感染拡大が収束していることを願います.
私は2004年の第104回の日本外科学会定期学術集会を担当いたしましたが,当時は新たな卒後研修制度が始まり,さらに専門医の広告が可能となった時期でありました.会長講演では,外科修練登録者の減少が深刻であること,医療環境でのマンパワー不足が外科診療を脅かし働く環境を悪化させ,ひいては外科医不足を助長することなどの課題について述べました.そのなかで米国認定外科修練プログラム数245に比べ,わが国では代表指導責任者(指定施設群数)が928人と異常に多いことも指摘しました.
さて,私と専門医制度の関わりは,学会認定医制協議会時代に遡り,その後新しい専門医機構発足前の日本専門医制評価・認定機構まで続きました.この間,「わが国の卒後修練制度においてカリキュラムはあるがプログラムがない」,ということを強調してきました.米国に臨床フェローとして留学し,レジデントやフェローの優れた臨床力をみて,米国のResidency Programの凄さに圧倒されたことが原点でした.新たな専門医制度設計を進めるなかで,基本領域と内科外科関連のサブスペシャル分野ではプログラム制を基本とすべきと考えて整備指針作成に加わりました.
第三者機関認定を目指す専門医制度改革では,行政から診療科偏在や医師の地域偏在の是正が求められました.プログラム制への移行において自助努力でこの問題に対応するのがアカデミアの役割と思っていました.しかし,大学を中心に若手医師の都市部集中を助長させる制度であると危惧され,当時の塩崎厚労大臣の一声で開始が1年延期となり,さらに医師法の改正で制度自体が厚労大臣の管轄下に入るという一番避けたいことが起ったわけです.長年の関係者の努力が,プログラム制への理解不足と大学講座の置かれた事情の前に瓦解したと思っています.
さて本論ですが,医療現場での課題のなかでこのポストコロナ時代に取り組むべきことは「医師の働き方改革」です.このシリーズでも富永,髙本両氏より提言がなされています.国からの医師働き方改革への道筋では,基本的に勤務時間の上限設定になっています.しかし,時間の上限設定ありきは本質から外れていることは明らかです.外科領域ではロボット手術が重要な役割を占めて行くなど,技術革新も急速に進みます.このような時代の流れのなかで,若手外科医の修練で問われるのは,働く環境の整備(タスクシフトなど)の下での計画的,効率的,そして柔軟性のある制度であります.わが国の外科専門医修練プログラムは,新制度で220程度に絞られたとはいえ,関連施設総数は約800,受け入れ枠の総数も2,000を超え,現実の希望者(800人程度)との乖離は顕著であります.1プログラム当たりの関連施設数が50を超える大プログラムが11もあり,地域偏在はじめ諸問題への解決には程遠く思われます.
対応策ですが,まずプログラム認定基準の適正化,すなわち受入数の上限設定(シーリング)による施設集約と地域への適正配置を進めることです.プログラムに多くの関連施設を組み込むのではなく,その役割分担で差別化し,関連施設数を症例が集まった施設に絞りながら,専攻医一人当たりの症例経験を増やすことで質の高いプログラムが形成されるはずです.修練施設の思い切った選別によってプログラム制での施設集約から地域偏在是正への道が開けるでしょう.第三者機関設立で求められていたことは,修練の標準化とピアレビューです.大学講座の在り方や役割に大きく関わることですが,ポストコロナ時代での大学人の意識改革が必要で,それなしには進まないことも明らかです.一方で,地域医療では救急を含む一般外科医療が必要となることを考えると,総合外科専門医を作るなど制度の再構築も考えねばなりません.
施設集約には病院間での診療科の統合を含む役割分担的な面と,修練プログラム構成での機能的集約があります.ここでいう施設集約は後者でありますが,将来的には前者につながるものと思います.施設集約化はデーターベースから医療の質の評価をもとにしたアプローチがあり,これまで心臓血管外科関連学会でも専門医制度を改定しながら取り組んできた命題です.しかし,あまり進展がみられない現状を考えると,働き方改革という新たなキーワードを組み込むことで前進するのではと考えます.今後の専門医制度を基盤とした働き方改革へのスキームを図1に示しました.現実を考えると簡単には進まないでしょうが,ポストコロナ時代は働き方改革を軸に諸制度への思い切った改革を実行するチャンスである,と捉えて欲しいと思います.
利益相反:なし
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