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日外会誌. 121(6): 686-688, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」 
4.「外科に所属している医師免許をもっている女性」が「女性外科医」になるまで

1) 藤田医科大学 乳腺外科学講座
2) 鹿児島大学 消化器・乳腺甲状腺外科学講座
3) 医療法人玉昌会加治木温泉病院 

喜島 祐子1) , 又木 雄弘2) , 夏越 祥次2)3)

(2020年8月14日受付)



キーワード
女性外科医, 働き方改革

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I.はじめに
平成16年の臨床研修制度の導入により,大学病院での初期研修ならびに外科後期研修の希望者が減少した.一方,女性医師の割合は年々増加している1).性別を問わず,若手外科医を育成していくことが重要であり,とくに外科医不足の地方で求められている.本稿では,女性外科医としての私の経験を踏まえて,求められるサポート体制と働き方改革について提言をしたい.

II.「外科に所属している医師免許をもっている女性」が「女性外科医」になるまで
1993年に鹿児島大学第一外科に入局した.結婚・出産,育児に重心を置いた時期を経て,一人で子供を育てなければならない,となった卒後8年目の私は,専門医資格なし,臨床経験ほとんどなし,学位なし,研究なし,論文なしの状況であった.私は「外科に所属している医師免許をもっている女性」であり,以後「外科医」となるまで長い道のりであった.
① 大学でサポートしてもらい,外科修練・臨床研究を始める
同期で入局した男性医師とは異なる人事を配慮してもらい,緊急疾患を多く扱う病院や離島への出張を免除され,大学院で研究により学位を取得した.医局の先輩にかけてもらった言葉「医者の代りはいくらでもいるが,子供にとってのお母さんはあなただけですよ」はありがたかった.
② 大学院卒業後に乳腺外科グループで,臨床修練を重ねる
学位取得後,乳腺グループに配属となり,実家の両親の助けをもらいながら,徐々に臨床に従事することが可能となった.「与えられた仕事は一生懸命しなさい」,「皆(ほかの男性医師)と同じでなくても,小さなことでいいので『○○のことは鹿大の喜島さんに聞きなさい』といわれる外科医になればいいよ」という先輩の言葉に支えられた.
③ 子育てと仕事時間確保に奮闘する
乳腺外科医として子育てと仕事時間の確保に奮闘していた時期に,乳腺外科医として既にご活躍だった田中眞紀先生に「親が強い意志さえ持っていれば,子供はきちんと育つから大丈夫ですよ」と声をかけてもらい勇気づけられた2).日本外科学会の日本―アメリカ外科学会交換プログラムに参加することができ,外科医としての探究心が刺激された3)
④ 子供が成人して手を離れたため,心と時間に余裕ができ現在に至る
男性医師とは異なる人事で長い目でみてもらったおかげで,学位や専門医の資格と自分の専門領域での研鑽を積むことができた.振り返ると,日々何気なくかけてもらった言葉や文章に励まされていた.

III.教室の男性・女性医師,およびポリクリ学生のアンケートからみた,求められているサポート体制や働き方改革
ポリクリ女子学生のアンケートの結果,半数以上が外科に興味はあるものの,外科を選ぶ弊害として,体力,プライベート時間の少なさをあげていた(図1).平成25年以降に入局した女性医師12名のアンケートでは,女性医師としての悩みは,勉強する時間が少ない,家庭と仕事の両立,プライベートの時間がない・少ない,という結果であった(図2).一方,男性医師へのアンケートでは,98%が女性医師をウェルカムすると答え,最も多かった理由は,「男女問わず,後輩外科医が増えるのは好ましい」であった(図3).

図01図02図03

IV.働き方改革による医師の利点
クラークの配置増加,看護業務の拡大や看護師特定行為の実施,薬剤師による入院患者への服薬指導など他職種の介入によって,医師の働き方が改革されると,医師の労働と時間が節約される.この時間的な余裕こそが,女性医師の育成,活躍へとつながっていくと思われる.

V.おわりに
外科医人生を振り返ってみて,周囲の理解と協力なくしては,今の自分は存在しなかったと思われる.この経験から思うことは,今後他職種に任せられる仕事の分別と環境整備により働き方改革を推進していくことが,外科医の労働軽減・時間節約につながり,女性外科医の強力なサポートになると考える.

 
利益相反
奨学(奨励)寄附金:中京テレビ株式会社,株式会社新日本科学

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文献
1) 厚生労働省:平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html
2) 田中 眞紀:日本が沈没しないように.福岡県医報(令和元年6月10日),第1516号.
3) 喜島 祐子:2007 日本―アメリカ外科学会交換プログラム体験記.日外会誌,109(1):57-59,2008.

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