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日外会誌. 121(6): 680-682, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」 
2.外科の魅力

がん研究会有明病院 胃外科

幕内 梨恵

(2020年8月14日受付)



キーワード
女性医師, 女性外科医

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I.はじめに
女性医師をテーマとした発表は,多くの場合「結婚・出産・育児」をしている女性を対象とし,出産や育児,家庭との両立を議題としている場合が多い.しかしながら,日本医師会男女共同参画委員会の調査では女性医師の約3分の1が未婚であり,私のような未婚の医師の立場から発信することもある程度意味があるのではないかと思う.今回,女性外科医に関わるデータに示すとともに,私の体験を通して,女性が男性と同じようにキャリアを積むことが可能であることや外科の魅力を提示したい.

II.女性外科医に関わる状況と外科のハードル
平成30年度の「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によると,女性医師の割合は21.9%であり,徐々に増加傾向である.しかし,外科(外科,呼吸器外科,心臓血管外科,気管食道外科,消化器外科,肛門外科を含む)における女性の割合は7.2%に低下する.また同調査によると,女性医師における外科の割合は3%であり,男性の10%と比較して非常に低い.女性医師の中でも外科は人気がないことが示されている.
女性医師が外科を選択する際のハードルの一つには,昔から言われている「外科は体力勝負」という言葉があろう.実際,手術で長時間立たなくてはいけない,術後管理などで病院に縛られる時間が長いなど,外科は体力が必要という印象をもたれやすい.スポーツ庁の実施する「体力・運動能力調査」においても多くの項目で女性は男性に劣る.しかしながら,実際外科の業務で必要となるのは,殆どの場合瞬発的な筋力ではなく持久力であり,持久力はむしろ女性の方が男性よりも優れるという研究結果もある1)
次に,家庭・育児との両立の難しさが挙げられる.家庭を持つ多くの女性外科医にとってこちらは実際大きな問題だろう.平成30年の日本医師会男女共同参画委員会の調査によると,女性医師の49%が休職の経験があると回答した.特に外科医にとって,手術から遠ざかることによる技術の低下の懸念は,外科を避ける一因となりうることが想像できる.休職理由の大部分が出産・育児であったことは,日本において,家事や子育ては女性の役割という考えが未だ根深いことを示唆している.しかし,最近は自分の同僚の男性医師も子供の送り迎えや入浴などを行っており,このような状況は若い世代を中心に確実に変わってきていると感じる.実際,2018年の「少子化社会対策に関する意識調査」では,家庭での家事・育児の役割は「妻も夫も同等に行う」との回答が約半数であり,男性の育児参画への意識が低いわけではない.厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると,男性の育児休業取得率は1996年の0.12%から2018年には6.16%に上昇した.今後さらに,家事や育児の女性偏重が改善されることが期待できる.

III.求められるサポート
厚生労働省の「女性医師離職防止・復職支援」などもあり,十分とはいえないものの,以前と比べると女性医師が働きやすい環境が作られていると思う.しかし,これらはあくまで女性が家事育児を担っている事が前提で,女性を対象としたサポートである.今後男性の家事・育児参加が増加することを考えると,男女を問わないサポートが必要だろう.男性も育児休業を取ることが必然となるよう,「女性へのサポート」ではなく家庭を持つ「夫婦へのサポート」の考え方,対策が必要ではないだろうか.これにより,一部の男性が感じている不公平感を軽減することや,男性の家事・育児への参加がさらに促進されることも期待できるだろう.

IV.経歴
私は筑波大学医学専門学群(現在の医学群医学類)を2005年に卒業後,大学の医局に所属せず,東京都の虎の門病院で初期臨床研修,後期研修の5年間を過ごした.当初より外科志望であったため,初期臨床研修から「外科プログラム」があることが,虎の門病院を選んだ理由の一つであった.当時の宇田川晴司部長を始めとした先生方には,外科の基本を教えていただいた.後期研修終了後,癌の手術の勉強を集中的にするために,がん専門病院で研修したいと考えた.いくつか病院見学した中で,特に静岡県立静岡がんセンターの寺島雅典先生の手術に感銘を受け,2010年から2019年までの9年間,同センターの胃外科に在籍した.この9年間は,日本トップレベルの手術とカンファランスに浸かる日々で,その過程で連携大学院制度を利用した学位や内視鏡外科技術認定医を取得し,多施設共同試験の事務局を務める機会も得た.現在もロボット支援下手術を含め多くの手術を執刀している.振り返ると,これまでの経歴は私自身が特段優秀であったわけではなく,多くのチャンスを与えてくれる上司や切磋琢磨した同僚のおかげであった.また,自分自身は性別が理由でハンディキャップを感じたことがなく,昨今の女性医師差別のニュースを聞くと,自分が環境に恵まれていたことを実感する.

V.外科の魅力
近年「外科医不足」が問題になっているが,外科医は実際は魅力にあふれる仕事である.私自身,自分が今研修医に戻っても外科医以外の診療科は選ばないと言える.魅力を上げればきりがないが,ここでは2点挙げたい.
第一に,手術により病気,特に癌を治癒することができる点である.昨今,化学療法の進歩は目覚ましいものの,未だ多くのがん腫において外科的切除は根治的治療の根幹であり,唯一治癒を期待できる治療法である.もちろん,根治手術ができない患者や術後に癌が再発する患者もいる.また術中・術後合併症をきたしたときには,非常につらい気持ちになる.しかしながら,幸い順調に手術が終わり,根治切除できたときには,外科医としてこの上ない喜びで,その達成感は何事にも代えがたい.
また,手術の技量が,自分の努力により向上できる点も魅力の一つである.日々の練習・勉強により手術技術が向上し,それが,術中出血量や手術時間,術後合併症に反映される.努力の結果が客観的に現れ,自分の進歩を感じられる点は,外科ならではの魅力だと感じる.

VI.おわりに
外科医という職業自体非常に魅力的でやりがいのあるものであり,性別を理由に外科を避けるような事態は本来あってはならない.私自身は女性であることのハンディキャプを感じたことがないが,これが特別なことではなく,将来的には一般的になるべきだろう.女性がキャリアを築く上で未だ日本には問題が多いものの,客観的なデータは改善を示している.近い将来,家事育児は男女共同の仕事であるという考えが当然のものとなり,活躍する女性外科医が増えることを期待している.

 
利益相反:なし

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文献
1) Lanning AC, Power GA, Christie AD, et al.: Influence of sex on performance fatigability of the plantar flexors following repeated maximal dynamic shortening contractions. Appl Physiol Nutr Metab, 42: 1118-1121, 2017.

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