日外会誌. 121(6): 678-679, 2020
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」
1.多様な働き方の実現に向けて
製鉄記念室蘭病院 氏家 菜々美 (2020年8月14日受付) |
キーワード
女性外科医, ワークライフバランス, キャリア形成
I.はじめに
昨今女性医師の割合は年々増加傾向にあり,特に39歳以下の若手医師では女性が全体の約35%を占めるなど活躍が目覚ましい.一方でライフイベントと仕事との両立は未だに女性特有の課題と位置付けられる傾向があり,働き方の偏った改革は医学部入試における性差別的点数調整をめぐる問題の背景ともなった.現場の医師不足を受け「マンパワー」強化のためには入試時点での女性医師数抑制も止むを得ないとするような意見が男女問わず散見されたことは,筆者も医学生,若手医師の立場として今後の働き方への不安が強まる契機となった.
このような現状を背景に,外科においても働き方の見直しは急務と言える.外科を選択する29歳以下の医師が年々減少し若手医師の「外科離れ」が叫ばれて久しい.一方で女性外科医は増加傾向であり20年で3倍に増加している.今は全体の8%と少ないものの,外科を志す女性はさらに増加していくことが見込まれる.今後,女性の働きやすい環境づくりは若手外科医獲得の大きな鍵の一つとも言えるだろう.
女性医師が外科を選択する上での垣根を低くしていくために必要な観点とは何か.筆者は外科医を志す初期研修医の立場から,外科医として働くにあたっての女性としての不安や若手としての希望などを考えながら,よりよい女性外科医の働き方について検討し将来への展望としたい.
II.本邦における女性のキャリア形成
筆者が医学生の時,「将来結婚相手には専業主婦になってほしい」「子育てや家事をやりながらでは外科医は出来ない」と言う男性医学生が多いことに違和感を覚えたことがある.女性が外科医になったら家事も育児も仕事も両立しながら働くことが理想像とされる一方,男性はただ仕事で結果を出せばよいだけというのは不公平だと感じたからかもしれない.しかし実際,女性と比べ男性が主体となってライフイベントに応じた働き方を選ぶことは非常に難しい.
内閣府男女共同参画局は6歳未満の子供を持つ夫婦の1日あたりの育児・家事時間について調査している.報告によれば,本邦では女性が7時間34分,男性が1時間23分の時間を家庭のために費やしており,その男女差は諸外国と比べても明らかに大きい.
医師についても例外ではない.厚生労働省は女性医師キャリア支援モデル普及推進事業の成果と今後の取組についての報告の中で,家族構成別に常勤医の勤務時間(診療時間+診療外時間+当直の待機時間)を調査している.結果によれば子供のいる家庭を持つ女性医師は週当たりの勤務時間が40時間程度と子供のいない男女と比べ短くなる傾向がみられた.女性医師の増加に伴いサポートが充実した結果,子育て世代の女性医師たちは短時間勤務や当直・呼び出しの免除など働き方の工夫によってライフイベントとキャリアの両立を実現できるようになってきた.しかしそれらのサポートは主に女性にのみ向けられたものである.本邦では女性のキャリア形成は常にライフイベントと密接な関係を持って語られてきたが,「家庭と仕事の両立」は男女共通の課題である.男性にも同様のサポートが与えられるべきだが,先の調査結果においても子供のいる家庭を持つ男性医師は週当たりの勤務時間が60時間以上と逆に長くなる傾向があることが明らかになっており,性差による偏った働き方が男女間に大きな格差を生みつつあると言えるだろう.
III.医学部不適切入試問題
2018年に明らかとなった医学部不適切入試問題は,男女間の働き方の格差・不平等感が想像以上に医療現場において軋轢を生んでいる事実を明らかにした.「家庭と仕事の両立」という理想はあくまで女性医師に向けられたものであり,男性はサポートを得づらい.むしろ女性の産休育休や離職をフォローしカバーする存在,家庭や子供の有無に関わらない「マンパワー」として位置づけられてきた.男性が育児や家事に参加するために働き方を調整しようとするのが難しい現状は前述のデータの示す通りである.そういった現在の男女の働き方の歪みの結果が公然と不適切入試を行う大学の体質に繋がったと言える.
冒頭でも触れたように,外科は特に若手女性医師の増加が著しい.しかし一方で男性医師は20年で30%減少しており,女性医師の増加もその減少数を補うことは出来ていない.「女性外科医が働きやすい環境」が必ずしも「男性外科医も働きやすい環境」となっていない現状は無関係ではないと考える.
IV.多様性のある働き方へ
これから将来従事していく診療科を選択する若手医師にとっては男女関わらず働きにくさの是正は急務であり,今後数ある外科の魅力の一つに「男女ともに」良好なワークライフバランスを保つことができる点を加えることは若手外科医確保の一助になると期待できる.あくまでキャリア形成とライフイベントの両立は男女問わず共通の課題である.加えて今後は結婚の有無や子供の有無を問わず,全ての人が必要なサポートを得ることができ,それぞれの状況や目的に応じて働き方を選べる環境づくりが不可欠であると考える.実現に際してはチーム主治医制の導入やコメディカル・医療事務の職務拡大による現場医師の負担軽減,院内保育の充実,男女ともに休職後のサポート体制の確立などが挙げられ,今後さらに広まることが期待される.
V.おわりに
筆者は未だ初期研修医でありこれから外科医となるべく研修を始めていく身だが,女性としても若手医師の一人としても,今後の外科において男女問わずよりよい働き方を実現していくため主体的に行動し考え続けていきたいと思う.
利益相反:なし
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