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日外会誌. 123(1): 39-46, 2022


特集

Modern Surgeon-Scientistによる恒常性維持器官の外科研究

6.糖鎖―レクチン結合を用いた新規がん治療法の開発

筑波大学 消化器外科

小田 竜也 , 下村 治 , 高橋 一広 , 土井 愛美 , 宮崎 貴寛 , 古屋 欽司 , 大和田 洋平 , 小川 光一 , 大原 佑介 , 明石 義正 , 久倉 勝治 , 橋本 真治 , 榎本 剛史

内容要旨
がん細胞も含め全ての細胞の最外層はGlycocalyxと呼ばれる糖鎖層で覆われている.がん治療をはじめとする多くの細胞標的治療は最外層を構成する糖鎖を標的とする事が効率的だと考えられる.しかし,糖鎖構造の複雑さ,解析手技の制限からがんにおける特異的な糖鎖変化は十分には明らかになっておらず,糖鎖標的治療は実用化されていない.われわれは糖結合タンパクであるレクチンをプローブとして網羅的な糖鎖解析を行い,膵がんに特異的に高発現しているH-type 1/3/4モチーフという3糖構造を明らかにした.これを抗体ではなく,レクチンで標的する新規治療法として,緑膿菌外毒素を融合したレクチンー毒素融合(LDC)を開発した.in vitroではIC50が1.04pg/ml=19.5fmol/Lと極めて強力で,従来の抗体―毒素(Immuno-toxin)における(ng/mlオーダー)と比較し約1,000倍強い殺細胞効果が得られた.さらに,in vivoの皮下腫瘍モデル,腹膜播種モデルにおいても著明な抗腫瘍効果を確認する事ができ,血管内投与でも一切赤血球凝集反応を来さない安全性も確認出来た.レクチンによる糖鎖標的治療は,抗体に依存していた標的抗がん治療に全く新たな第三の選択肢となり得ると考えられた.

キーワード
糖鎖, レクチン, 膵がん, レクチンー毒素融合薬(LDC)


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