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日外会誌. 103(6): 476-481, 2002


特集

癌の分子診断学-ここまで進んだ診断・治療への応用-

6.膵癌

熊本大学 医学部第2外科

林 尚子 , 江上 寛 , 小川 道雄

I.内容要旨
悪性腫瘍の中でも膵癌は最も予後の悪い癌の1つである.しかも,最近まで,その生物学的悪性度が何に起因するのかほとんど解明されていなかった.近年の分子生物学の進歩により,膵癌も遺伝子の異常によっておこる“遺伝子病"であることが明らかになってきた.K-rasに代表される癌遺伝子の活性化, p53, p16, DPC4などの癌抑制遺伝子やBRCA2などのゲノム修復遺伝子の不活性化が膵癌における主な遺伝子異常として報告されており,これらの遺伝子のいくつかに変異が生じ,異常が蓄積して,細胞は腫瘍性増殖をはじめる.最近,正常膵管より膵管上皮内腫瘍を経て,浸潤性膵管癌へと多段階的に進展する膵管癌の進展モデルが提唱され,病理学的検討と共に分子生物学的解析も行われている.その結果,K-ras遺伝子変異は腫瘍発生のごく早期に,p16の異常は異型上皮の段階で, p53, DPC4遺伝子の変異とテロメラーゼの活性化は発癌の晩期の段階で生じることが示された.ところで,膵癌の多くは散発性に発生するが,膵癌が多発する家系もあり,このような家族性膵癌の解析を行うことも,膵癌発生の解明の一助となるであろう.このように,膵癌の発生や進展のメカニズムを遺伝子レベルで検討することは,遺伝子に基づいた膵癌の新しい診断や治療法の開発をもたらし,膵癌の予後の向上に貢献するものと期待している.

キーワード
K-ras, p53, p16, DPC4, テロメラーゼ


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