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日外会誌. 103(6): 482-486, 2002


特集

癌の分子診断学-ここまで進んだ診断・治療への応用-

7.肺癌の分子診断学

福岡大学 医学部第2外科

白日 高歩 , 野田 尚孝 , 松添 大輔

I.内容要旨
肺癌の前癌病変として中枢気管支上皮においてはhyperplasia, metalasia, dysplasiaがあげられ,末梢においてはatypical adenomatous hyperplasia(AAH)があげられる.前者のうちhyperplasia, metaplasiaにおいてはLOHの頻度はすくないがdysplasia(sever)ではin situと同程度のLOHが観察されてくる.肺癌において重要視される遺伝子変異としてはC-myc, K-ras, erbB-2等の癌遺伝子の変異があげられる.特にK-rasは非小細胞性肺癌において10~30%程度に変異がみられており,また喫煙による発癌刺戟との関連性が注目されている.
一方,癌発生において極めて重要なプロモーターとなる抑制遺伝子の失活についてはp53が最も注目されている.肺癌ではp53の変異が非小細胞性肺癌で50%以上,小細胞癌で80%以上の頻度で認められる.本遺伝子は再発,進行性肺癌に対する放射線治療の面でも大きな役割を果していると考えられ,p53の変異が認められるケースでは放射線感受性の低下が観察される.
肺癌への分子生物学的解析は肺内腫瘍が原発癌か転移癌か不明な場合に極めて重要な情報を我々に与える.例えば肺内に多発性腫瘤が存在する場合,それらが原発癌とそれに伴なう転移性肺癌なのか,あるいはいずれもがprimary cancerであるのか病理学的判断のみで結論を出し難い場合が多い.また他臓器癌切除後肺内に出現した腫瘍が転移性であるのか原発性肺癌であるのか組織診が同一の場合判断が困難となる.このような場合に腫瘍組織についての分子生物学的解析(DNA診断)は決定的な鑑別診断の情報を与えるものとして重要視される.

キーワード
非小細胞肺癌, 肺癌, 癌遺伝子, p53, K-ras


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