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日外会誌. 102(4): 348-352, 2001


特集

弁膜症手術の最近の動向

10.冠動脈疾患を伴った弁膜症手術

京都大学 医学部心臓血管外科

野本 卓也 , 米田 正始

I.内容要旨
冠動脈バイパス術と弁膜症手術との同時手術は,リスクの高い手術だが,近年,心筋保護の改良,手術手技の確立,病態のメカニズムの理解,などにより,手術成績は改善してきている,手術においては,綿密な手術計画が重要である.手順として,大動脈弁手術では,グラフトを採取し体外循環開始,順行性および逆行性に心筋保護液を注入して心停止を得る.以後,フリーグラフト(大伏在静脈など)の末梢側吻合,大動脈弁置換,LITA-LAD吻合,フリーグラフトの中枢側吻合の順に行う.僧帽弁手術でもほぼ同様の手順であるが,フリーグラフト末梢側吻合では,弁置換後は心脱転が望ましくないため,吻合が完全であることを確認する.手術のポイントとして,以下の3点に留意する.まず心筋保護では,同時手術のため心筋虚血時間が長くなり心筋保護の重要性が高い.僧帽弁手術では,順行性に冷却心筋保護液を使用し,末梢側吻合後は静脈グラフトから注入する.大動脈弁手術では,逆行性心筋保護液注入が適しており,頻回もしくは連続的に注入する.大動脈弁狭窄症においては初回のみ順行性に注入するのもよい.2つめは使用材料だが,若年者には,機械弁と動脈グラフトを中心に使用し,高齢者では,生体弁と静脈グラフトおよびLITAを使用する.ただし単純な弁膜症手術と比べ予後が悪い疾患であり,個々の症例毎に検討することが重要である.3点目は,僧帽弁手術における弁置換と弁形成の選択であるが,後尖の逸脱による逆流など,定型的な手術が可能な場合は弁形成を行うべきだが,複雑な病態で形成困難ならば迷わず弁置換を行うべきである.この際にも左室機能維持のため,後尖(できれば前尖も)の腱索温存や人工腱索により,左室と僧帽弁輪との連続性を保つことが重要である.

キーワード
冠動脈バイパス術, 弁膜症手術, 同時手術, 虚血性僧帽弁閉鎖不全症, 腱索温存


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