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日外会誌. 96(1): 44-53, 1995


原著

肝障害ラットにおける肺動脈の変化に関する実験的検討

広島大学 医学部外科学第一講座

宮本 勝也

(1993年2月10日受付)

I.内容要旨
門脈圧亢進症,特に肝硬変症において肺高血圧症が合併しやすい事が報告されており,その機序として本来は肝臓で代謝されるべき体液性因子が直接肺に作用するためであるとする仮説が提唱されている.そこで肝硬変症と肺高血圧症の因果関係を検討する目的で,以下の実験を行った.
四塩化炭素(CCI4)による肝障害ラットと門脈下大静脈シャント術を施行したラットを用いて,右室収縮期圧(RVSP),門脈下大静脈シャント率(S率),肺小動脈の組織学的検討,肝機能検査について比較検討を行った.又Dimethylnitrosamine(DMN)による肝障害ラットを用いて,肝障害の進行の程度と上記の項目の関連性を検討した.
CCI4肝障害群およびシャント群は対称群に比較してRVSP,S率ともに有意な上昇を認めたが,RVSPは肝障害群(25.6±1.4torr)がシャント群(21.3±2.0torr)より有意に高いのに対して,S率は肝障害群(3.3±1.2%)がシャント群(17.8±3.9%)より有意に低値であった.組織学的にも両群とも肺小動脈の中膜および内膜の肥厚を認めたが,その程度は肝障害群の方がシャント群より高度であった.DMN高度肝障害群のRVSP(29.5±2.7torr),S率(47.9±14.1%)は,DMN中等度肝障害群(22.6±1.1torr,4.2±2.6%)より有意な高値を認めた.又DMN肝障害において,RVSPはT. Bil,GOTと正の,Hepaplastinと負の相関を認めた.
CCl4およびDMN肝障害により肺高血圧症類似の病変が惹起された.その程度は遠肝性側副血行の発達度のみでは説明できず,又肝障害の程度と相関している事より,肺高血圧症発症の機序としては肝外性の遠肝性側副血行だけではなく,肝食細胞の機能低下や肝内シャント等の肝臓自身の網内系としての機能低下が関与していることが示唆された.

キーワード
肝硬変症, 肺高血圧症, 遠肝性側副血行, 四塩化炭素, ジメチルニトラサミン


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