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日外会誌. 96(1): 36-43, 1995


原著

脾摘後の免疫能の変化:外傷症例における経時的検討

大阪大学 医学部救急医学

島津 岳士 , 田畑 孝 , 田中 裕 , 塩崎 忠彦 , 杉本 壽 , 吉岡 敏治 , 杉本 侃

(1992年9月8日受付)

I.内容要旨
腹部外傷において脾臓摘除(脾摘)が感染免疫能に及ぼす影響を検討するために,脾摘を必要とした13例の鈍的外傷症例を対象に免疫能の種々の指標を受傷後1年間にわたり経時的に測定するとともに,長期(受傷後3~5年)予後についても検討した.
1例は受傷後10カ月目において偶発症のために死亡したが,他の12例は1年後において健在であった.補体・免疫グロブリンは手術後一過性に低下したが,1週間目には正常あるいはそれ以上に増加した.補体,Ig-GとIg-Aはその後も正常範囲内で経過したが,Ig-Mは増加し続ける症例が多く従来の報告とは反対に1年後にも高値(187±106mg/dl)であった.白血球分画のうち好中球数は術直後に軽度増加しており1週間目をピークにその後は減少した.一方,リンパ球は術直後には減少(1,512±660/mm3)していた.リンパ球分画では,手術直後のT細胞(56.8±16.0%)はhelper(OKT-4),suppressor(OKT-8)ともに低値であったが,1週間目以降は回復した.しかし,helper T細胞の減少とsuppressor T細胞の増加傾向があり,1カ月目以降では大半の症例でhelper/suppressor比(4/8比)の逆転がみられた.リンパ球幼若化反応は大半の症例で正常値以下で推移した.肺炎球菌抗体は受傷後6カ月から1年の間に抗体価が著しく低下する症例が多く,1年後に有効濃度に達していたのは1例のみであった.長期予後としては,調査しえた10例のうち2例に肝炎が認められた.
このように外傷症例において脾摘後に生じる免疫能の障害は細胞性免疫の持続的抑制が主体であり,液性免疫の低下は一般に一過性であった.しかし,Ig-Mは従来の諸外国での報告と異なり,脾摘後に明らかな低下を示さず,むしろ増加する症例が多く認められた.また,肺炎球菌抗体価は1年後には著しく低下しており肺炎球菌ワクチンの有用性が示唆された.

キーワード
外傷, 脾臓摘除, 脾摘後重症感染症, IgM, 肺炎球菌抗体


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