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日外会誌. 93(7): 691-698, 1992


原著

噴門部および横隔膜のリンパ流に関する実験的研究

久留米大学 医学部第1外科(主任:掛川暉夫)

吉田 力

(1991年4月24日受付)

I.内容要旨
噴門部のリンパ流,とくに噴門部癌における横隔膜へのリンパ行性進展経路を明らかにするために,イヌを用いて噴門部癌を想定した下行性リンパ路遮断モデルを作成し,噴門部から縦隔側,腹腔側,横隔膜に向かうリンパ流について色素注入法により検討した.対照群では左胃動脈系,短胃動脈あるいは後胃動脈に沿う脾動脈系,噴門部から直接大動脈周囲に至る左下横隔動脈系などの下方向へのリンパの流れが主体であり,縦隔へ向かう上方向経路,横隔膜へ向かう側方向経路は認められなかった.しかし,遮断群では噴門部胃側から食道に沿って上縦隔へ向かう上方向経路(12頭中4頭)および,裂孔部食道から横隔膜へ向かう側方向経路(12頭中3頭)を認めた.さらに横隔膜へ浸潤転移した癌腫の進展方向を明らかにする目的で,過酸化水素法と色素法を併用し横隔膜自体のリンパ流について検討した.その結果,横隔膜肋骨部のリンパ流は,肋骨に沿って壁側胸膜下を腹側に向かい内胸リンパ管系に合流する経路,横隔膜を貫き腹腔内へ至る経路,横隔膜面を腰椎部へ向かい食道裂孔や大動脈裂孔に至る経路など多方向への流れがみられた.以上の結果より裂孔部食道から横隔膜へ向かう側方経路は,下部食道から胃に向かう下行性のリンパ流が遮断されることによって生じた新生リンパ管による側副リンパ行路と考えられる.したがって裂孔部食道まで浸潤した胃上部・噴門部癌では上・下行経路以外に側方向への転移も容易にきたすと考えられ,横隔膜脚を含む裂孔部横隔膜の合併切除が必要である.

キーワード
噴門部癌, 横隔膜, リンパ流, 過酸化水素法, 微粒子活性炭


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