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日外会誌. 93(7): 699-708, 1992


原著

十二指腸乳頭部癌の臨床病理学的並びに免疫組織化学的研究

国立仙台病院 外科

新田 篤 , 山内 英生

(1991年4月19日受付)

I.内容要旨
過去18年間に当科で経験した乳頭部癌症例40例のうち,十分に検索可能な32例において,癌組織に共存する非浸潤性腺腫様構造物(non-invasive adenomatous component, 以下nac)の意義について検討し,さらに,膵癌,胆管癌,および正常乳頭部におけるCA19-9分布様式を比較検討することにより,乳頭部癌の発生母地,発生部位および予後との関連性について考察した.
nac陽性率は,全体としては44%であったが,Stage I 91%, Stage II 44%, Stage III 7%と,進行度が増すに従い減少した.肉眼型別では,腫瘤型65%,混在型38%,潰瘍型0%であったが,腫瘍の大きさとは無関係であった.また, nac陰性群では,陽性群に比して, n, d, pane, v因子いずれにおいても有意に高値を示し, nacの共存しない乳頭部癌は浸潤傾向が強いことが示唆された.さらに, 5生率は,nac陽性群78%, nac陰性群22%と, nac陽性群が有意に良好な結果を示した.乳頭部癌組織内CA19-9分布様式は, nac共存例では, nac部分では抗原分布が認められず,浸潤癌部分に一致して散在性の分布を示したが, nacの共存しない乳頭部癌では,びまん性の分布を示すものが多く,膵癌,胆管癌に類似していた.正常乳頭部におけるCA19-9分布は,膵管および胆管粘膜では,びまん性の分布を示すものがほとんどであったが,共通管および乳頭開口部粘膜に移行するに従い,散在性の分布を示すものが増加し,十二指腸粘膜ではほとんど認められなかった.
以上のことから総合して, nacの共存する乳頭部癌は,腺腫を母地として,共通管粘膜や乳頭開口部粘膜,あるいは,十二指腸粘膜からの発生が示唆され,浸潤傾向が少なく,予後良好であると考えられる.一方,膵管および胆管末梢部粘膜からの発生が示唆される乳頭部癌は, de novoの発生が推定され,浸潤傾向が強く,予後不良であると考えられる.

キーワード
十二指腸乳頭部癌, 非浸潤性腺腫様構造物 (nac), 免疫組織化学, CA19-9


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