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日外会誌. 93(1): 52-61, 1992


原著

常温肝虚血時の肝エネルギー代謝の検討
―正常肝および硬変肝ラットの比較を中心として―

東京大学 医学部第1外科

伊豆 稔

(1990年11月22日受付)

I.内容要旨
常温肝虚血時のエネルギー動態の検討を目的としてthioacetamide投与で作成した硬変肝ラットと正常肝ラットを開腹して,門脈頸静脈シャントをおき,肝門部で肝動脈,門脈を一括して遮断し肝虚血モデルとした.このモデルを用いて両群の虚血前および虚血5分, 10分, 20分, 30分後の肝組織を採取して,肝adenine nucleotideをHPLC(高速液体クロマトグラフ)で測定した.また, これとは別に31P-NMRを用いて肝虚血前および虚血後の肝細胞内のβATP,無機燐酸, phosphomonoester, pHの変化も観察した.
虚血前の硬変肝のATP量は正常肝に比べて少なかった.しかし,虚血後の正常肝のATP量は急減したのに対し,硬変肝での減少は緩徐であり,虚血後の肝ATP量は硬変肝の方が大きかった.また,硬変肝の虚血前の肝組織内乳酸量は,正常肝の2倍以上も存在した.31P-NMRで測定した虚血前のβATPは,両群間に有意差がなかったが,虚血後のβATPはHPLCの測定結果と同様に,正常肝では急速に低下したのに対し,硬変肝では緩徐に減少した.などの成績を得た.
組織のviabilityを示すといわれている細胞内ATPに注目すると,虚血後の硬変肝のATPは正常肝よりも常に大きく, ATPが小さいものほどviabilityが低いという考えとは矛盾する成績であった.
硬変肝では,グルコースの利用率が低下するため, TCA回路に利用されるacetyl-CoAの産生は,脂肪酸の分解に負うところが大きい.その結果,硬変肝では細胞内にFFA, acyl-CoAが増加し,これがNa+-K+ATPaseを抑制している.虚血後のATPの消費は主に細胞内外の電位差の維持,すなわちNa+-K+ ATPaseに用いられる.そこでこの活性の低下している硬変肝ではATPを有効に活用できない状態にあるために虚血後のATPの消失が遅いと考えられた.

キーワード
常温肝虚血, 肝硬変, エネルギー代謝, 肝組織pH, 肝組織内乳酸


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