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日外会誌. 92(10): 1469-1479, 1991


原著

大腸癌肝転移における腫瘍核 DNA 量および c-erbB-2 癌遺伝子産物発現に関する研究
―臨床病理学的所見および予後との関連―

北海道大学 医学部第1外科学講座(主任:内野純一教授)

大森 一吉

(1990年9月1日受付)

I.内容要旨
肝転移(-)大腸癌45例と,肝転移(+)大腸癌44例の原発巣および肝転移巣の核DNA量とc-erbB-2産物発現を検索し,これらと臨床病理学的所見および予後との関連性について検討した.核DNA量はFlow cytometry(FCM)によりDNAヒストグラムを作成し, DNA indexとploidy patternを決定した.c-erbB-2産物発現は免疫組織化学染色により検索した.
1)核DNA量:DNA index(DI値)の分布は,diploidyの他にaneuploid領域で1.00<DI≦1.50のlow ploid aneuploidy(LPA)群と,1.50<DIのhigh ploid aneuploidy(HPA)群の2峰性分布を示した.肝転移例は原発巣・肝転移巣ともaneuploidyの頻度が有意に高率であった(p<0.05).原発巣と肝転移巣間でploidy patternの解離を22.7%に認めた.肝転移巣最大径は肝転移巣diploid群よりHPA群で有意に大きかった(p<0.05).また,異時性群に原発巣diploidy,H3群に原発巣HPA,v(+)群に原発巣LPAの頻度が有意に高率であった(p<0.05).
2)c-erbB-2産物発現:肝転移(-)大腸癌に比べ肝転移(+)原発巣・肝転移巣とも発現率は有意に高率であった(p<0.01).発現陽性率はaneuploidyに多かったが,DNA indexとの相関はなかった.原発巣の壁深達度がs(a2)以上で発現率が高かった(p<0.05).また,有意差はないが,異時性肝転移例の原発巣での発現率が高かった.
予後は,c-erbB-2産物発現の有無で有意差はなかったが,原発巣・肝転移巣ともLPAが最も予後不良であった.大腸癌肝転移切除例で,肝転移巣核DNA量は独立した予後因子であることが確認された.また,c-erbB-2は,大腸癌の肝転移に関与し,予知因子として有用である可能性が示された.

キーワード
大腸癌肝転移, DNA index, ploidy pattern, c-erbB-2, 予後因子


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