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日外会誌. 92(10): 1419-1425, 1991


原著

術後感染症併発時における顆粒球エラスターゼの変動と生体内に及ぼす影響

山口大学 医学部第1外科(主任:江里健輔教授)

松井 則親 , 守田 信義 , 野島 真治 , 榎 忠彦 , 相川 文人 , 小林 哲郎 , 江里 健輔

(1990年9月1日受付)

I.内容要旨
術後の顆粒球エラスターゼ(PMNE)の変動について検討し,特に術後感染症併発時におけるその測定意義と,免疫系・凝固線溶系に及ぼす影響について知ることを目的とした.
消化器外科待期手術53例を対象とし,PMNE,白血球数の他, Fibronectin(FN),補体C3,C4,Fibrinogen(Fbg),FDP,AntithrombinⅢ(ATⅢ)を術後経日的に測定した.感染症併発(18例)を併発群,非併発(35例)を非併発群として,各測定値の術前後の変動を比較検討した.
その結果,(1)非併発群ではPMNE値は術後1日目(1POD):235±96.1,術後3日目(3PDO):181±57.9,術後7日目(7POD):131±39.7,術後14日目(14POD):112±22.6と術後一過性に上昇したが,14日目には術前値まで低下した.FN,C3,C4,ATⅢも一過性に低下したが,7日目には回復した.(2)併発群ではPMNE値は1POD:291±118,3POD:219±64.0,7POD:183±41.7,14POD:196±104と術前値と比較し術後14日目まで有意な高値が続いた.また発症日より早発群(n=8,発症日平均3.1日)と遅発群(n=10,発症日平均12日)に分けて検討すると両群ともPMNE値は臨床的な発症および白血球増加よりも前から非併発群と比較して上昇し,特に遅発群において顕著であった.(3)FN,ATⅢ値は術後14日目に併発群において有意に低値となり,PMNE値とは両者ともr=-0.38(p<0.01)と有意な負の相関を認めた.
以上より,PMNE値は術後感染症の早期発見に有用な指標になると考えられた.また感染症併発時にはPMNEの上昇の遷延化により,FN,ATⅢの分解,不活性化を生じ,凝固系の亢進状態に陥っていることが示唆された.

キーワード
顆粒球エラスターゼ (PMNE), 術後感染, Fibronectin, Antithrombin III


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