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日外会誌. 92(8): 907-912, 1991


原著

重症熱傷受傷早期における thrombin 生成の動態とDICの発症機序

鹿児島大学医学部附属病院 救急部

上山 昌史 , 山本 五十年 , 澤田 祐介

(1990年8月22日受付)

I.内容要旨
広範囲熱傷受傷早期の血液凝固系の動態とこの時期におけるDIC発症機序を明らかにする目的で,thrombin-antithrombin III複合体(TAT)とantithrombin III(AT-III)活性値を12例の熱傷患者において経時的に測定し,その変動を検討した.
12例は受傷24時間以内のDIC合併の有無によりDiC群(n=4,Burn lndex=94.3±4.9)と非DIC群(n=8,Burn Index=39.1±21.1)に分類した.TATは受傷6時間後をピークとして増加し,DIC群は非DIC群より有意に高値であった(p<0.001).TATの対数はBurn Indexと正の相関を示し(r=0.871,p<0.001),重症度に依存した受傷直後の大量のthrombin生成が示された.AT-III活性値は非凝固系蛋白であるalbuminと極めて類似した変動パターンを呈し,両者の強い正の相関から(r=0.865,p<0.001),熱傷初期に特有な体液変動が受傷直後のAT-III活性低下の主因と考えられた.その程度は重症度と強く相関し(r=-0.875,p<0.001),DIC群は非DIC群に比し有意な低値をとった(p<0.001).
以上,熱傷受傷早期には重症度に依存したthrombin生成・抗凝固系活性低下が同時に進行する.AT-IIIとTATの相互関係から,DIC非発症例は抗凝固系のthrombin不活化能が保たれている代償された凝固充進状態にあると考えられた.この代償の破綻は超重症熱傷症例でみられ,Burn Index 90以上の症例においてTATの異常高値(316.3±104.5ng/ml)とAT-IIIの著しい活性低下(19.5±8.7%)をもってDICが発症した.

キーワード
熱傷, DIC, thrombin-antithrombin III complex (TAT), antithrombin III (AT-III)


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