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日外会誌. 92(6): 672-680, 1991


原著

大腸腺腫,癌におけるレクチン結合部位の検討
ーその光学顕微鏡的,電子顕微鏡的観察ー

千葉大学 医学部第1外科(主任:奥井勝二教授)

小田 奈芳紀

(1990年7月31日受付)

I.内容要旨
大腸粘膜の悪性化に伴う粘液の変化を分析するために,レクチンのうちDBA及びPNAの結合部位を光顕的,電顕的に観察した.光顕的観察は正常粘膜11例,移行部粘膜24例,過形成性ポリープ6例,腺腫48例,癌35例のホルマリン固定,パラフィン切片を用いABC法で行った.電顕的観察は正常粘膜3例,腺腫7例,癌4例の新鮮標本を用いPre-embedding法及びPost-embedding法で行った.DBAによる染色範囲の1/3以上の症例は,正常粘膜,腺腫,癌を比較すると100%,95.8%,46.8%と異型度の進行とともに減少し,PNAは18.2%,58.3%,97.1%と増加した.染色局在は腺腔内分泌物型,細胞腔側型,核上部型,杯細胞粘液型に分類された.腺腔内分泌型及び細胞腔側型は癌腺管におけるPNA染色に特徴的であり,核上部型は非癌腺管のPNA染色に特徴的であった.また杯細胞粘液型は正常粘膜のDBA染色に高率に認められた.電顕的観察では,DBAは正常粘膜,腺腫の腺腔内分泌物に均一な沈着を,PNAは癌腺管に不均一な沈着を示した.正常粘膜や腺腫の細胞腔側ではDBAが微絨毛周囲の糖衣に局在を示したが,癌ではPNAが直接腔側細胞膜に付着する像が認められた.また,Post-embedding法ではPNAは一部の分泌顆粒内にも反応性を認めた.核上部型ではゴルジ装置のcis側層板にPNAの結合が認められた.杯細胞粘液はDBAの沈着が顆粒内に点状に認められた.またNeuraminidase処理により正常粘膜,腺腫の細胞腔側,杯細胞粘液にPNAの染色性が認められた.以上より大腸粘膜の悪性化に伴い,レクチン染色性および局在性に大きな変化が認められ,この変化と微細構造との関係が推察された.またPNAの腫瘍マーカーとしての有用性が評価され,これを用いた大腸癌High risk腺腫検出の可能性が示唆された.

キーワード
大腸癌, 大腸腺腫, レクチン, 透過型電子顕微鏡, Neuraminidase


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