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日外会誌. 92(6): 681-688, 1991


原著

閉塞性黄疸の発生とその遷延機序
ー胆汁流路の変化に関する病理学的検討ー

日本医科大学第2病院 外科
日本医科大学 第2病理学教室

松本 光司

(1990年6月1日受付)

I.内容要旨
閉塞性黄疸時における減黄術後の黄疸遷延の原因とその発生機序の解明を目的として,臨床的に閉塞性黄疸を呈した剖検症例の肝臓および実験的に総胆管結紮後のラットの肝臓を,形態的に光顕的,電顕的観察を行うとともに実験的に用いたラットには,胆管結紮後の胆汁流路の変化を観察するために,Horseradish peroxidase(HRP)を下腸間膜静脈より血行性に,あるいは結紮部中枢側の総胆管にカニュレーションを行い胆管を介して逆行性に投与することにより電顕組織化学的に観察し,特に肝細胞形質膜機能の障害との関連性を検討した.光顕的にヒト肝臓では,胆管内胆汁鬱滞および肝細胞接合部毛細胆管に胆汁栓の形成が見られた.電顕的には,毛細胆管の著明な拡張とmicrovilliの消失が観察され,管腔内に胆汁栓を認めると共に,肝細胞内にも胆汁を含有したvesicleが認められた.一方総胆管結紮後のラット肝では,電顕的に総胆管閉塞早期より細胞内小器官の変化と,毛細胆管で管腔の拡張,microvilliの減少,blebの形成および周囲ectoplasmの拡大が認められ,毛細胆管周囲にfilamentの増生が観察された.胆汁流路に関する検索では,HRPを血行投与した対照動物ではHRPの側壁および毛細胆管内への分布が観察されたが,総胆管閉塞後にはHRPの局在は認められなかった.またHRPの総胆管よりの逆行性投与では,対照動物で毛細胆管内にHRPの限局した局在が見られるのに対し,総胆管閉塞後にはHRPは毛細胆管よりtight junctionを介して側壁および類洞に分布し,さらに毛細胆管周囲にはHRPの局在したvesicleが観察された.以上より,閉塞性黄疸術後の黄疸遷延の一因としては胆管内圧の亢進はもとより,胆汁酸の直接作用が肝の細胞膜構造の不逆性障害に重要な役割を果たしているものと考えられ,その早急な原因除去が黄疸遷延を防止するものと思われる.

キーワード
閉塞性黄疸, horseradish peroxidase (HRP), 胆汁流路, 肝細胞形質膜, microfilament


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