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日外会誌. 92(2): 167-174, 1991


原著

肝再生過程における肝ミトコンドリア呼吸能とミトコンドリア膜脂質過酸化
―正常肝と硬変肝切除後の実験的検討―

*) 仙台徳州会病院 外科
**) 東北大学 医学部第1外科

菊池 淳*) , 大内 清昭**) , 松野 正紀**)

(1989年12月5日受付)

I.内容要旨
正常肝と硬変肝切除後の肝再生時における肝ミトコンドリア(以下Mt)の脂質過酸化とエネルギー代謝動態を測定し,両者の関連につき検討を加えた.
SD系雄性ラットを用い,正常(N)及びthioacetamide肝硬変(C)に対してそれぞれ1/3(I)及び2/3(II)肝切除を施し,この4群について肝切除後14日目までの肝復元率とMt呼吸能及びMt膜過酸化脂質値(LP値)を測定した.
肝復元率は,N群及びC-I群で順調に回復し14日目で約90%に達したが, C-II群では7日目以降で回復が遷延し14日目でも71.3%と有意に低値であった.
正常肝のMt呼吸能は両切除群とも1日目に最高値となり5日目に最低値となったが,その後14日目には切除前値に回復した.全経過を通じN-II群がN-I群より高値で推移した.LP値は術後著明に増加するが,N-II群がN-I群に比してより早期により高い値に達した.
一方,硬変肝ではMt呼吸能がC-I群で14日目には回復したのに対して, C-II群ではその最高値が3日目と遅れて上昇した後経時的に低下し14日目に最低値を示した.LP値は両群とも1日目に最高値となり3日目までの早期にC-II群がC-I群に比して高値を示し,14日目においてもC-II群は高値を示す傾向がみられた.
更にC-II群の肝切除に際し抗酸化剤としてα-tocopherolを投与したところ,肝切除後1,3,5日目の脂質過酸化の抑制と,1日目のMt呼吸能RCの改善が認められた.
以上より,正常肝においては肝切除後の脂質過酸化尤進にもかかわらずエネルギー代謝の尤進は抑制されず,正常肝の機能的予備力が細胞障害を上まわったものと考えられた.一方,硬変肝では切除後Mt呼吸能の充進はみられず,その原因に早期のLP値の増加が関与し,ひいては再生に対し影響を与えた可能性も考えられた.

キーワード
肝硬変, 肝切除, ミトコンドリア機能, 脂質過酸化, 肝再生


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