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日外会誌. 91(11): 1675-1684, 1990


原著

選択的胃迷走神経切離術兼幽門洞切除術における右胃大網動静脈とそれに沿う神経枝温存の意義
ー筋電図学的検討ー

新潟大学 医学部外科学教室第1講座(主任:武藤輝一教授)

加藤 知邦

(1989年11月2日受付)

I.内容要旨
選択的胃迷走神経切離術兼幽門洞切除術(選胃迷切兼幽切)後の残胃の運動を知る目的で,雑種成犬を用い無処置犬,選胃迷切兼幽切を行う際に右胃大網動静脈とそれに沿う神経枝を温存したSV+A’犬,切離したSV+A犬,迷走神経切離術(迷切)を行わず幽門洞切除のみを行った幽切犬を作成し,意識下に筋電図を導出し検討を加えた結果以下の結論を得た.1.空腹期において無処置犬と幽切犬で規則正しく出現した胃migrating myoelectric complex(MMC)はSV+A’犬およびSV+A犬では出現しにくくなるが,SV+A’犬では十二指腸におけるMMC 1周期あたりのspike potentials(SP)をともなうbasic electric rhythm(BER)の発生頻度は保たれていた.2.食後期においてSV+A’犬およびSV+A犬では無処置犬や幽切犬で認められない異所性興奮が認められるようになるが,SV+A’犬ではSV+A犬に比してその発生頻度は少なかった.また,SV+A’犬では無処置犬よりもBER伝播速度は遅延していたが,その変化率は幽切犬とほぼ等しくSV+A犬に比し伝播速度の改善が認められた.3.インスリン低血糖刺激によりSV+A犬では減少するSPをともなうBERの発生頻度がSV+A’犬では保たれることから右胃大網動静脈に沿う神経枝にはコリン作動性神経が存在すると考えられた.
また,SV+A’犬に経胸的に前幹迷切,後幹迷切,全幹迷切を加えインスリン低血糖刺激下に筋電図を導出し比較検討した結果,そのコリン作動性神経は迷走神経後幹を経由するルートをとると考えられた.
以上の結果より,選胃迷切兼幽切を施行する際に右胃大網動静脈とそれに沿う神経枝を温存する術式は術後の胃運動を保つことから,胃内容停滞発現頻度を減少させる優れた術式であることが示唆された.

キーワード
十二指腸潰瘍, 選択的胃迷走神経切離術兼幽門洞切除術, 胃内容停滞, 胃筋電図, 右胃大網神経枝


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