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日外会誌. 91(11): 1667-1674, 1990


原著

食道癌手術における術後肺合併症の予測
ー術前肺機能評価を中心としてー

関西医科大学 外科学教室(指導:山本政勝教授)

川口 雄才

(1989年12月9日受付)

I.内容要旨
食道癌手術における術後肺合併症の発生を術前の肺機能検査より予測することを目的として,食道癌症例50例について,末梢気道の閉塞性病変を示唆するV25,V50/V25と術後肺合併症の関係を検討した.術後肺合併症の診断は,術後2週間以内に胸部X線写真上,喀疾排出障害に起因する無気肺・肺炎の異常陰影が1回でも認められたものとし,胸膜性の変化,肺水腫,胸水貯留などは除外した.その結果,術後肺合併症の発生率は50例中24例の48%であった.そこで術前肺機能検査の内,V25とV550/V25の2項目に着目したところ,この2項目の組合せによる術後肺合併症の発生予測は,各術式別に,以下の数値を設定することが出来た.すなわち,非開胸例ではV25が0.3l/sec未満,V50/V25が4以上,2領域リンパ節郭清以下の開胸例ではV25が1.0l/sec未満,V50/V25が3以上,さらにV25が1.0l/sec未満,V50/V25が3末満の場合,V-V曲線において下に凸の形すなわち閉塞性障害のパターンを示したときに,術後肺合併症が全例に認められた.また,拡大3領域リンパ節郭清でもV25が1.0l/sec未満,V50/V25が3以上の場合では全例に術後肺合併症を認めたが,V25が1.0l/sec以上,V50/V25が3未満あるいはどちらか一方が異常値を示す正常群においても,手術操作に伴う迷走神経肺枝,反回神経あるいは気管支動脈の切離や障害により,9例中4例(44.4%)に術後肺合併症を認め,術前肺機能検査より術後肺合併症を予測することは困難であった.しかしながら,上記の術前肺機能検査値は手術適応ならびに術後の呼吸器系の管理を考慮する場合の,一応の基準値として重要であることが示唆された.

キーワード
食道癌, 術前肺機能検査, 術後肺合併症, V25, V50/V25


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