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書誌情報]
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日外会誌. 91(7): 818-826, 1990
原著
残胃癌発生に関する実験的研究
I.内容要旨残胃癌の発生要因を検討するために,ウィスター系雄ラットに発癌剤を一切投与せずに幽門側胃切除を行った後,十二指腸液が残胃内に逆流・循環するよう各種の吻合術を行いその結果を経時的に観察検討した.
実験(1)では,ラットに胃切除した後,胆汁を含む十二指腸液がすべて胃内に還流するような吻合法を行い,10週後,20週後,40週後に計44匹を屠殺してそれぞれの時期の胃粘膜の変化を検索した.
次に,実験(2)で上記と同系統のラットを4群に分け,実験(1)と同じ方法を行うI群(12匹),I群にBraun吻合を加えたII群(9匹),胆汁のみが残胃に逆流・循環するようにしたIII群(7匹),胆汁を含まない膵液を主体とする十二指腸内容が残胃に逆流・循環するIV群(12匹)を作成し,40週後に屠殺,検討した.残胃粘膜の組織所見については,癌,atypical hyperplasia(以下AHP),潰瘍に分けて検討した.
実験(1)では,週の経過とともに癌の発生率(0→18.8→35%)およびAHPの出現頻度・程度が高くなった.実験(2)では,I群で癌の発生率(33.3%)は,実験(1)と変わらなかったが,II群,III群には癌の所見を見ず,IV群の1例(8.3%)に癌の発生を見たにとどまった.しかし各群を通じてAHPの変化は胃の輸出脚側粘膜よりも輸入脚側粘膜により高頻度に見られた.すなわち,胆汁逆流だけでは吻合部胃粘膜に癌化は生ぜず,AHPの変化を生ずるにとどまった.
以上の成績から,残胃癌の発生には,胆汁を含む十二指腸液の逆流が重要であり,膵液の関与も軽視できないことが示唆された.
キーワード
残胃癌, 十二指腸液胃内逆流, atypical hyperplasia, Billroth II 法
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