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日外会誌. 91(5): 564-574, 1990


原著

食道癌組織についての DNA ヒストグラムの解析

久留米大学 医学部第1外科(主任:掛川暉夫教授)

力武 浩

(1989年6月12日受付)

I.内容要旨
癌病巣を構成する主たる細胞であるstem cellが,DNA量を変動させながら増殖・進行してゆくのか否かを知るために,化学発癌による実験食道癌の動物モデルを用いて,組織材料について,fiow cytometryを用いて,癌細胞核のDNA量を測定し,DNA index(DI)値を検討した.また,臨床例については,当科で切除したリンパ節転移をもつ胸部食道癌62例を対象とした.
実験食道癌47病巣について,a因子別にploidy patternを検討したところ,mm~smで,11病巣中2病巣(18.2%),pmで10病巣中3病巣(30%),a1~a2で,22病巣中13病巣(59.1%)およびa3で,4病巣中2病巣(50%)がaneuploid patternを示し,深達度が増大するにつれてaneuploidの出現率が増加した.臨床例では,胸部食道癌62例の原発巣のploidy patternは,35例(56.4%)がdiploidであり,27例(43.6%)がaneuploidであった.リンパ節転移巣では,45例(72.6%)がdiploid,7例(11.3%)がaneuploid,さらにdiploidとaneuploidのリンパ節が混在する10例(16.1%)を観察した.原発巣と個々の転移リンパ節のDI値を比較すると,62例中29例(46.8%)ではDI値が異なっていた.この29例の原発巣のploidy patternは,6例(20.7%)がdiploidおよび23例(79.3%)がaneuploidであった.さらに,この29例について,転移リンパ節297個を腫瘍細胞の占拠率によって25%未満,25%以上50%未満,50%以上75%未満および75%以上の4群に分類し,そのDI値を検討した.その結果,腫瘍占拠率が増大するにつれて,DI値は高値となる傾向が認められた.
以上より,癌細胞の核DNA量は,原発巣のみならずリンパ節転移巣においても,癌の増殖・進行とともに変動してゆくことが推察された.このことは,種々のDI値を持つ癌細胞集団の母数が変化し,その結果,stem cellが変動するためと考えられた.

キーワード
実験食道癌, N-amyl-N-methylnitrosamine, 胸部食道癌, 癌細胞核 DNA 量, Flow cytometry


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