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日外会誌. 91(5): 556-563, 1990


原著

全身状態の定量的評価に基づく食道癌手術適応基準についての検討

大分医科大学 外科学第1講座(主任:小林迪夫教授)

斎藤 貴生 , 桑原 亮彦 , 下田 勝広 , 平尾 悦郎 , 重光 祐司 , 木下 忠彦 , 小林 迪夫

(1989年6月1日受付)

I.内容要旨
全身状態を年齢,既往・合併疾患,各重要臓器機能,臓器機能指数(OFI),生体防御指数(HDI)によって定量的に評価する食道癌手術適応基準を設定し,それが術後合併症死の有無をどの程度予測しうるかについて,retrospectiveならびにprospective studyを行った.1981年10月より1987年7月までに経験した食道癌108例(切除83例,バイパス5例,非手術20例)のうち,1985年12月迄の前期例は69例,これ以降の後期例は39例であった.このうち,年齢,既往・合併疾患で適応外の例および残りの3基準による評価ができない例を除外した前期の35切除例にretrospective studyを,後期の24切除例にprospective studyを施行した.食道癌の手術術式を手術侵襲レベルにより,1期手術,2期分割手術,非手術の3レベルに区分し,手術適応の判定を手術侵襲レベルごとに行った.術後合併症死の有無の予測に際しては,適応基準で判定された手術レベルより1レベル重い手術が施行されると術後合併症死が起こるとの仮定を設けた.各重要臓器機能にOFIとHDIを加えた基準で術後合併症死の有無を予測すると,retrospective studyでは10例の合併症死例のうちの9例,25例の非合併症死例のうちの24例が予測され,全体としての的中率は94.3%であった.また,prospective studyでも,2例の合併症死例のうちの2例,22例の非合併症死例のうちの19例が予測され,的中率は87.5%であった.他方,各重要臓器機能,各重要臓器機能+OFIまたは各重要臓器機能+HDIによる3基準で同様の予測を行った場合,12例の合併症死例のうち,それぞれ3例,5例,7例が予測されたに過ぎず,手術適応基準としてこの3基準による総合的評価が必要なことが示された.以上,各重要臓器機能にOFIとHDIを加えた手術適応基準は,高い的中率で術後合併症死を予測できることが明らかとなり,本基準の臨床上における有用性が示された.

キーワード
食道癌, 手術適応基準, 術後合併症, 全身臓器機能, 生体防御


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