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日外会誌. 91(4): 491-499, 1990


原著

門脈肝血流変換の実験的研究

鹿児島大学 医学部第2外科(主任:平 明教授)

中山 博美

I.内容要旨
雑種成犬で,新しい門脈血流変換モデルを作成し門脈血行動態の変化を検討した.また,このモデル犬に肝動脈結紮を加え,生存率,肝機能の推移を対照犬と比較検討した.血流変換は腎静脈流入部末梢側で切断した下大静脈末梢側断端と上腸間膜静脈本幹の端側吻合と鼡径靱帯の末梢側での右大腿動静脈側々吻合でおこなった.血流は大腿動脈-大腿静脈-下大静脈―門脈に達する.
実験をI群,およびII群に分けた.I群(n=8)は急性実験で門脈血流変換直後に観察した.II群は門脈血流変換に肝動脈結紮を加えたII-A群(n=14)と門脈血流変換を加えずに,肝動脈結紮のみを行ったII-B群(n=9)である.II群は術後7日まで観察した.
I群で門脈血流量/心拍出量比は術前値の23±6%から56±9%へ,門脈圧は119±14mmH2Oから198±25mmH2Oへ,また門脈血酸素分圧は48±7mmHgから65±6mmHgへといずれも有意(P<0.01)に上昇した.II-A群で術後7日目まで生存した10例で,門脈血流量/心拍出量比は術前の23±6%が47±7%へ門脈圧は120±18mmH2Oが162±23mmH2Oへ,門脈血酸素分圧は54±7mmHgが67±6mmHgへと共に有意(p<0.01)に上昇した.II-B群は9例中1例が7日まで生存した.両群の生存率には有意差(p<0.05)がみられた.II-A群4例の死因は術後早期の下大静脈血栓でII-B群は肝壊死であった.
この門脈血流変換モデルでは本来の門脈血行は維持された上で門脈血流は2~3倍に増大し,門脈血酸素分圧は有意に上昇したが,門脈圧上昇は急性期にも200mmH2O以下にとどまった.このモデルでは大腿動静脈瘻の大きさを加減することで短絡量は容易に制御しうる.また,肝動脈遮断による肝壊死が防止された.新しい血流変換モデルは従来の門脈動脈化法にない利点をもち肝阻血,虚血への対策,肝大量切除後の肝不全の防止や肝再生,肝移植後の機能の補助などの用途が考えられる.

キーワード
門脈血流変換, 門脈動脈化法, 肝動脈結紮, 肝壊死


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