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日外会誌. 91(4): 481-490, 1990


原著

内シャントバイパスを用いた門脈切除後の肝の超微形態学的変化と機能変化

名古屋大学 医学部第1外科(主任:塩野谷恵彦教授)
*) 名古屋大学 医学部第3解剖学教室

河野 弘 , 二村 雄次 , 若林 隆*)

(1989年4月10日受付)

I.内容要旨
内シャントバイパスを用いた門脈切除術を行った場合の肝に及ぼす影響について,主として肝ミトコンドリアの機能と形態の面から実験的研究を行った.同時に外シャントバイパスを用いた門脈切除の場合と実験的に比較検討した.
雑種成犬を静脈麻酔下に開腹し,長さ10cmの抗血栓性UKカテーテルを門脈に挿入し,内シャントバイパスとした(内シャント群).また門脈・下大静脈に同カテーテルを挿入し,外シャントバイパスとした(外シャント群).両群ともバイパスを2時間施行し,この間肝動脈を遮断し,バイパス後動脈,門脈とも再開通した.対照群として肝動脈のみ2時間遮断したモデルも作製した(非シャント群).
肝組織をシャント前と再開通2時間後にそれぞれ採取し,分離ミトコンドリアの機能(呼吸,ATPase,ATP合成能)について測定し,内シャント群,外シャント群のそれぞれの変化を検討した.同時に電子顕微鏡を用いてミトコンドリアの超微形態学的変化を観察した.また経時的に8時間まで血液を採取し,m-GOTとOCTの血清酵素を測定し,内シャント群,外シャント群,非シャント群についてそれぞれの経時的変化を検討した.
分離ミトコンドリアの機能,また組織形態面からみると内シャント群,外シャント群ともにシャントによる変化はみられなかった.ところが血清酵素の面からみると,内シャント,非シャント群では何ら変化がないのに対し外シャント群では経時的に有意に上昇した.これらの事実から内シャント群では肝ミトコンドリアは障害を受けないのに対し,外シャント群では不可逆的な変化ではないと推定されるが,ある程度肝実質障害を受けていることが判明した.臨床の場で門脈切除の対象となる疾患の多くは術前に肝障害があり,門脈切除を必要とする症例では内シャントバイパスを用いた方が安全であることが推測された.

キーワード
肝ミトコンドリア, 門脈内シャントバイパス, 門脈外シャントバイパス, 虚血性肝障害, 門脈切除


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