[書誌情報] [全文PDF] (4287KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 91(3): 313-319, 1990


原著

活性炭吸着アクラルビシン術前局所注入による拡大乳房切断術

神奈川県立がんセンター 外科
1) 神奈川県立がんセンター 2科
2) 神奈川県立がんセンター 3科
3) 神奈川県立がんセンター 4科

麻賀 太郎1) , 小林 理2) , 増沢 千尋1) , 本橋 久彦2) , 岡本 堯3)

(1989年4月15日受付)

I.内容要旨
乳癌所属リンパ節に対する化学療法を目的として,活性炭吸着アクラルビシン(ACR-CH)の術前局所注入を行ない,乳癌根治手術を行なった.各所属リンパ節の黒染度,リンパ節内アクラルビシン(ACR)の濃度測定を行ない,拡大乳切例におけるACR-CH術前注入の有用性について検討した.(対象と方法):CH40(#40炭素50mg/ml+ポリビニ-ルピロリドン20mg/ml)2mlにACR 20mgを加え(ACR-CH),乳癌手術執刀前に腫瘤内,あるいは癌周辺の乳腺内に注入した.対象は拡大乳切(Ps+3r+(Sc))13例,定型乳切+Ps 3例,定型乳切7例,非定型乳切11例の計34例である.(結果):(1)拡大乳切13例の所属リンパ節別黒染度は1a55%,1b54%,1c70%,2+2h67%,369%,3(1)73%,3r+前縦隔46%,4 49%であった.平均リンパ節ACR濃度(μg/g)は1a 4.38±4,80,lb 17.79±24.58,2+2h 6.07±3.27,3 7.63±9.89,3r+前縦隔7.74±5.45,4 6.92±5.55と各リンパ節とも高濃度であった.(2)ACR-CH局所注入とACR点滴静注のリンパ節内ACR濃度を比較すると,局所注入法は点滴静注よりACR濃度は40~50倍高く,かつその濃度の持続時間も長かった.(3)リンパ節転移の有無別に黒染度をみると,転移(-)リンパ節79%,転移(+)リンパ節42%であった.また黒染リンパ節の平均ACR濃度は54.16±123.16,非黒染リンパ節の平均ACR濃度は2.58±3.59と黒染リンパ節が有意に高かった.(4)転移(+)リンパ節で黒染されたものは,微小転移巣を有するリンパ節が大部分であり,高度な転移を有するリンパ節の黒染は極めて少なかった.(5)以上の結果からACR-CH局注は乳癌所属リンパ節に対するtargeting chemotherapyとして有用であったが,ACR-CH注入を行なえばPs,Scのすべての転移リンパ節に高いACR濃度が得られるわけではないので,ACR-CHの局注を施行した後にPs,Scの郭清を行ない,郭清が不完全となりがちな同部の微小転移巣を有するリンバ節や,リンパ管内遊離癌細胞に対する抗癌効果を期待すべきものと考えられた.

キーワード
微粒子活性炭, 活性炭吸着抗癌剤, targeting chemotherapy, 拡大乳房切断術


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。