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日外会誌. 91(2): 163-168, 1990


原著

尿中トリプシン阻害物質投与におけるラット敗血症モデルの血小板形態と機能に及ぼす影響

関西医科大学 救命救急センター

谷口 智行 , 石倉 宏恭 , 武山 直志 , 高木 大輔 , 北澤 康秀 , 田中 孝也

(1989年4月4日受付)

I.内容要旨
敗血症病態下の血小板の数,形態,機能に対し,生体内物質であるurinary trypsin inhibitor(UTI)がいかなる作用をおよぼすかについて,ラット敗血症モデル(CLP:cecal ligation and puncture)を用い以下の検討を行なった.
CLP作成と同時に体内埋め込み型osmotic pumpを用いて,UTI 5,000U/kg/hを腹腔内に持続投与し,16h後に開腹,被検血液を得た.比較検討はsham,CLP,CLP+UTIの3群にて行い,結果は以下のごとくであった.
1.UTIはCLP群における血小板減少を抑制し,造血組織より新生される機能旺盛な大型血小板の出現を抑制した.
2.ADP,collagenによる血小板最大凝集率(MAR)の検討では,CLP群で亢進し,CLP+UTI群では凝集能の抑制が認められた.
3.血小板内に含有されるadenine nucleotideを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて検討したところ,CLP群ではtotal ATP,ADPは共に増加していた.特に放出反応のエネルギー産生の場であるmetabolic pool中ではhigh energy phosphateであるATPが,granular pool中では二次凝集の強さに関与するADPが増加していた.しかしCLP+UTI群ではこのようなadenylate poolの量的変動は認めなかった.
以上の結果より,UTIは敗血症における血小板回転の安定化作用を有するものと考えられた.また敗血症下の血小板は機能亢進状態にあり,この状態下に何らかの誘因が加わることによって容易にthrombosisに移行し得ることが示唆された.しかしUTIを投与することにより,CLP群で認められた血小板内adenine nucleotideの変動が認められなかったことより,UTIは血小板の内部環境の恒常性を維持しDICへつながる敗血症の病態改善の一助となりうるものと推察された.

キーワード
敗血症, 血小板, urinary trypsin inhibitor (UTI), 血小板内 adenine nucleotide


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