[書誌情報] [全文PDF] (1699KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 91(1): 123-129, 1990


原著

膵癌でのras, myc oncogene 産物に対する免疫組織学的検討

長崎大学 医学部第2外科(主任:土屋涼一教授)
1) 長崎大学 腫瘍医学(主任:珠玖洋教授)

元島 幸一 , 小原 則博 , 塩竈 利昭 , 藤井 政昭 , 中郷 俊五 , 角田 司 , 長田 康彦1)

(1989年2月17日受付)

I.内容要旨
各種消化器癌のパラフィン切片を用い,1次抗体はKirsten-ras,Harvey-ras,N-rasの3者のP21 proteinとcrossする抗K-,H-,N-ras monoclonal antibody,c-myc増幅で知られているHL-60 cellを抗原として作製された抗myc polyclonal antibodyとし,免疫組織学的にABC法で染色した.胃癌41例,大腸癌40例のras陽性率はそれぞれ51.2%,60.0%,myc陽性率は58.5%,70.0%であった.肝癌のras,myc陽性率は,いずれも低率であった.胆道癌,膵癌のras陽性率は72.0%,82.4%で,myc陽性率は64.0%,67.4%と胆道癌,膵癌のras陽性率が高かった.胃癌,大腸癌の進行癌のras,myc陽性率は,いずれも早期癌より高率であった.膵癌のstageごとの陽性率はstage II 66.7%,III 80.0%,IV 92.3%で,各stageとも高い陽性率を示し,しかも相関係数0.99と,膵癌stageとras陽性率間には高い相関関係が認められた.stage決定因子であるT因子とN因子については,ras陽性率はT1 50.0%,T2 85.7%,T3 84.6%,T4 80%であり,ras陽性率とT因子のgrade間での相関係数は0.68と弱い相関関係が認められた.N因子のgradeとmyc陽性率はN0 50%,N1 75.0%,N2 100%,N3 75.0%で,相関係数0.63と弱い相関関係が認められた.膵癌34例中ras陰性症例は6例あった.これらのうち8年9ヵ月,5年11ヵ月の長期生存例や,1年7ヵ月,1年目の再発所見のなかった他病死症例が含まれ,ras陰性群には予後のよい症例が多かった.しかし,術死症例などを除く31例について,ras陽性群(25例)とras陰性群(6例)に区分し,生存曲線を求め,generalized Wilcoxon法にて生存率を検定したところ,Kaplan-Meierの生存曲線で,ras陰性群のほうがras陽性群より高い生存率を示したが,有意の差はなかった.

キーワード
膵癌, ras, myc


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。