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日外会誌. 90(3): 355-363, 1989


原著

Bromodeoxyuridine および免疫組織化学的手法を用いたヒト癌細胞動態の基礎的, 臨床的研究

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

菊山 成博

(1988年5月19日受付)

I.内容要旨
thymidineの関連物質であるbromodeoxyuridine(BrdU)および抗BrdUモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的手法を用いてヒト固形悪性腫瘍の細胞動態の基礎的・臨床的検討を行った.
基礎的検討には,ヌードマウス可移植性ヒト癌株7株(胃癌株:St-4,H-111,乳癌株:MX-1,結腸癌株:Co-3,Co-4,肺小細胞癌株:Lu-24,Lu-130)を用い,腫瘍の増殖とlabeling index(LI)を指標としたDNA合成能との関連を検討した.BrdU投与はin vivoで行い,標本はパラフィン包埋後抗BrdUモノクローナル抗体を用いたABC法により免疫組織化学染色を行った.LIは腫瘍細胞に対する染色細胞の比率(%)で表した.LIは対数増殖の開始時期に一致して上昇し,その後ほぼ一定の値をとる傾向が見られた.また腫瘍倍増時間とLIの間にはr=0.848の推計学的に有意の負の相関関係が示された(p<0.05).
臨床的検討は,消化器癌29例(胃癌24例,大腸癌5例)を対象とした.術前にBrdUを投与し検体の処理は基礎的検討と同様の方法で行った.胃癌症例24例のLIは,4.0%より41.4%(median value,14.2%)の広い範囲に分布し,また大腸癌症例5例のLIは20.1%より34.1%(median value,25.8%)の値を示した.胃癌症例の検討では組織型とLIの間には関連が見られず,進行胃癌では中心部に比較して先進部でLIは高い値を示した(p<0.005).胃癌症例をstage I症例とstage II,III,IV症例に分けた場合,stage l症例のLI(median value,8.4%)はstage II,III,IVのLI(median value,21.9%)に比して低い値を示した(p<0.005).
本法は放射性同位元素を用いずに短時間で結果が得られる方法であり,ヒト癌の細胞動態の解析に有用な方法であると考えられた.

キーワード
胃癌, ヌードマウス可移植性ヒト癌株, 細胞動態, Bromodeoxyuridine, 免疫組織化学染色


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