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日外会誌. 90(3): 364-376, 1989


原著

下部食道・噴門部リンパ流に関する実験的臨床的研究

鹿児島大学 医学部第1外科(指導:島津久明教授)

夏越 祥次

(1988年5月18日受付)

I.内容要旨
下部食道・噴門部癌の複雑なリンパ行性進展を解明するため,実験的にイヌを用いて色素注入法によりこの領域の壁内外リンパ管の肉眼的観察および電子顕微鏡的観察を行い,さらに噴門部胃側を結紮した遮断モデルにおけるリンパ流の変化を検討した.同時に臨床例については壁内および所属リンパ節内のRI uptakeよりリンパ流の解析を行い,その成績を下部食道癌,噴門部癌のリンパ節転移率と対比検討した.
食道胃境界部の壁内リンパ管には粘膜固有層,粘膜筋板を中心として相互に交通を認めたが,胃側から食道側に向かうリンパ管の方が優位であった.しかし,粘膜下層より深層では食道壁,胃壁ともに筋層を貫き腹腔内リンパ節に至るリンパ流が主体であった.壁内RI uptakeに関する成績も食道側と胃側の交通を示したが,移行率は低率であった.壁外リンパ流は下部食道では上下2方向に流れ,RI uptakeの成績および下部食道癌の転移率と一致した.噴門部胃側では下方向への流れが主体であり,最終的には腎静脈周囲の大動脈周囲リンパ節に至った.食道裂孔部および一部の横隔膜のリンパ流は縦隔胸膜を上行するリンパ管を経て胸腔内リンパ節に流入した.
通常では胃側から胸腔内に向かうリンパ流は認められず,RI uptakeの成績も同様に胸腔内リンパ節の取り込みは低率であった.噴門部癌を想定した遮断モデルでは,長期になると色素が食道壁内を進展している所見が認められ,壁外では22.2%(6/27)に胸腔内リンパ管の描出がみられた.一方,噴門部癌の胸腔内転移率はリンパ節の再切再検の結果を含め17.0%(8/48)であった.以上の実験的・臨床的検討より噴門部癌の胸腔内リンパ行性転移の発現には,正常でも交通のある壁内リンパ流が癌腫によって修飾されたり,通常認められない壁外リンパ流に変化(新生,側副路,逆行)が生じることが関与するものと考えられた.

キーワード
下部食道リンパ流, 噴門部リンパ流, 下部食道・噴門癌リンパ節転移, RI uptake, リンパ管微細構策


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