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日外会誌. 90(3): 343-354, 1989


原著

術後高カロリー輸液の至適エネルギー投与量および糖・アミノ酸組成に関する検討

千葉大学 医学部第1外科

林田 和也 , 真島 吉也 , 田代 亜彦 , 山森 秀夫 , 奥井 勝二

(1988年4月26日受付)

I.内容要旨
術後侵襲期の高カロリー輸液(TPN)の至適エネルギー投与量,至適組成を求めるため,中等度侵襲と考えられる消化管手術症例49例の術後にTPNを行い,5群に分けエネルギー投与量,糖質およびアミノ酸組成を変えて比較検討した.維持エネルギー投与量はI,II,V群が40kcal/kg/day,III,IV群が術後の安静時エネルギー消費量にほぼ等しい30kcal/kg/dayで,糖質はI~IV群はブドウ糖のみを,V群はブドウ糖,果糖,キシリトールが重量比4:2:1の糖質製剤を用いた.アミノ酸はII,IV群は分枝鎖アミノ酸(BCAA)を30%と従来のアミノ酸処方より比較的多く含む製剤を用い,I,III,V群はBCAA 21%の従来製剤を用いた.その結果,1週間の累積窒素平衡値は投与エネルギーの多いI,II群がそれぞれIII,IV群に比し高かった.アミノ酸組成を変えた場合はBCAAを多く用いたII,IV群が有意に高く,また第2,3病日の窒素平衡値にも有意差を認めた.糖質の差ではV群が1群より有意ではないが良好な傾向を示した.尿中3メチルヒスチジン・クレアチニン比はI,V群がII群に比較して有意に高値であった.一方,血清臓器蛋白,とくに代謝回転の早い蛋白であるプレアルブミン,レチノール結合蛋白はアミノ酸,糖質による差はみられなかった.血清トリグリセリド,遊離脂肪酸,βハイドロキシ酪酸はV群が高値となった.血糖は5群間に差はなく,IRIはIII,IV,V群がI,II群に比し有意に低値となったがアミノ酸による差はなかった.
以上より,窒素平衡試験から高濃度BCAAアミノ酸製剤は侵襲時に有効であり,果糖とキシリトールを加えた製剤もブドウ糖単独のものに劣らぬ効果を有している.また,エネルギー投与量は40kcal/kg/dayがのぞましいが,30kcal/kg/dayの投与量でも蛋白喪失は多量ではなく,とくにBCAAを用いるとほぼ0にし得うることがわかった.

キーワード
術後高カロリー輸液, 手術侵襲, 至適エネルギー投与量, 糖質配合, 分枝鎖アミノ酸


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