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日外会誌. 90(3): 334-342, 1989


原著

敗血症時における顆粒球エラスターゼの変動 :
臓器障害に及ぼす影響について

大阪大学 医学部救急医学

田中 裕 , 杉本 壽 , 吉岡 敏治 , 杉本 侃

(1988年4月25日受付)

I.内容要旨
敗血症に起因するmultiple organ failure(MOF)時の生体内反応を明らかにするために穎粒球エラスターゼ(polymorphonuclear leukocyte elastase,PMNE)の変動および臓器障害に及ぼす影響について研究した.
敗血症に起因するMOF症例14例をMOF群とし比較群として出血性ショックを伴った外傷患者で,MOFに至らず軽快した24例を外傷群とした.両群における経時的なPMNEの変動およびインヒビターであるα1-アンチトリプシン(α1AT)を測定した.またPMNEは好中球より放出されることより,同時期の好中球数を比較した.さらに組織障害の指標として血小板,フィプロネクチン,凝固系第XIII因子値を両群で比較した.
その結果,1.MOF群では敗血症と診断した時よりPMNE値は831±241μg/lと高値となりMOF診断後も高値が持続した.外傷群では来院時574±131μg/lと上昇したが,以後低下し1週間以内に正常となった.
2.好中球数とPMNE値には有意な相関はみられなかった.しかし好中球1細胞あたりのPMNE値はMOF群では0.05以上と外傷群に比べて有意に高値となった.
3.α1AT値は両群とも上昇し正常の2倍近くに達した.
4.血小板はMOF群では3.6±1.2万と低値が持続した.またフィブロネクチン,第XIII因子値もMOF群で有意に低値となり,PMNE値とはそれぞれr=-0.71,r=-0.81(p<0.05)と有意な負の相関を認めた.以上より敗血症に起因するMOF時には,大量のPMNEが放出されており,そして血小板,フィプロネクチン,第XIII因子の低下を認め,生体の高度な破壊が生じているものと考えられた.血中ではα1AT活性が上昇し,PMNEは不活化されているが,組織局所においてPMNEは細胞障害因子として作用しMOFを進展するhumoral mediatorとなることが本研究で示唆された.

キーワード
顆粒球エラスターゼ (PMNE), multiple organ failure, α1‐アンチトリプシン, humoral mediator, 組織障害


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