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日外会誌. 89(11): 1796-1809, 1988


原著

肝切除術後の感染防御能および血液凝固因子レベルに及ぼす新鮮凍結血漿投与の効果に関する臨床的ならびに実験的研究

東京大学 医学部第1外科学教室(主任:森岡恭彦教授)

市倉 隆

(昭和62年6月22日受付)

I.内容要旨
肝切除術後は,術前から併存する肝機能障害に手術侵襲が加わり,さらに術後には肝組織容積が減少するため,後出血や腹腔内感染症をはじめとする合併症の危険が高く,発症するとしばしば肝不全の契機となる.そこでその対策としての新鮮凍結血漿(FFP)大量投与の効果を検討した.
(1)1区域以上の肝切除症例(24例)を, FFP10単位/日以上を術後4日間以上投与した大量投与群とこれに満たない量を投与した少量投与群とに分けて比較すると,術後の血漿オプソニン活性は大量投与群で有意に高値を示した.また大量投与群では広範囲切除例が多いにもかかわらず術後腹腔内感染症の合併率が低い傾向にあった. FFP大量投与群における血液凝固第V, IX, X, XI因子は術前は低値であったが術後上昇する傾向を示した.最もturnoverの速い第VII因子は術後さらに低下しFFP大量投与の効果がみられなかったが, criticalなレベルまでは低下せず,実際に凝固不全による後出血もみられなかった.
(2)イヌ70%肝切除モデルに静注したE.coliのクリアランスを検討すると, 10分以後の血中消失率は低下しbiexponentialな曲線となったため,循環血液系と貪食細胞系からなるtwo compartment modelを想定し,血中細菌の貪食細胞系への捕捉及び血中への逆流,貪食細胞による細菌の取り込みの各相について速度定数を算出した. 70%肝切除群では対照群に比べ捕捉相が障害され逆流相が亢進した. FFP投与及び血漿による細菌の前処理は両相に影響を及ぼさなかった.一方70%肝切除後の取り込み相はFFP投与により有意に改善した.正常血漿による細菌の前処理も同様の効果をもたらしたが,非働化血漿による前処理は無効であったことから, FFP投与の効果は血漿中の易熱性オプソニンによると考えられた.さらにFFP投与は細菌静注後の生存率をも改善した.以上の結果より肝切除術後のFFP大量投与は非特異的感染防御能の強化に有効と考えられた.

キーワード
肝切除, 新鮮凍結血漿, 感染防御能, オプソニン, 血液凝固因子


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