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日外会誌. 89(10): 1603-1610, 1988


原著

上部消化管癌の手術時における水分電解質代謝
ー特に心房性ナトリウム利尿ホルモンを中心としてー

関西医科大学 外科学教室 (指導:山本政勝教授)

小島 善詞

(昭和62年11月10日受付)

I.内容要旨
上部消化管癌の手術時における水分電解質代謝を明らかにするため,心房性ナトリウム利尿ホルモン(α-hANP) を中心として各種パラメーターとともに検討した.対象疾患は,食道癌右開胸開腹術(r-TA群) 6例,胃癌左開胸開腹術(I-TA群) 4例,経腹的胃全摘術(TMR群) 8例,胃部分切除術(PMR群) 10例,計28例であった.測定は術前(麻酔前投薬投与後),手術終了時,術後3時間,術後6時問,術翌日早朝,術後第2, 3, 4, 7病日早朝に行なった.測定項目は,α-hANP(RIAニ抗体法),血清・尿浸透圧(氷点降下法),血清・尿中電解質などであった.その結果,α-hANP濃度は開胸群(r-TA群, I-TA群)においては術終了時より第7病日まで持続的に高値を呈したのに対し,非開胸群(TMR群, PMR群)では,術終了時をピークとしてその後低下傾向をとり,第3病日頃より再び増加傾向が認められたが第7病日には術前値に復した.これらの各群間中,第1, 2, 3, 7病日には統計学的有意差が認められた.
非開胸群では一次水分出納及びナトリウム投与量の動きとほぼパラレルに相関する傾向が認められた.しかし,開胸群ではこれらの動きに解離が認められた.α-hANPは採血時の脈拍・血圧との間には明かな関係は認められなかった.また,尿中ナトリウム/カリウム比の低下はr-TA群<1-TA群<TMR群<PMR群の順で認められ, この比の低下は侵襲の大きさの指標であると考えられた.
以上のことからα-hANPは術中・術後の侵襲期の水分・電解質代謝上,主役的な役割を果たす重要なストレスホルモンであり,その分泌動態を経時的測定により把握することは,肺合併症の予防あるいは手術侵襲度の評価の観点からも,非常に有用な指標の一つと考えられた.

キーワード
心房性 Na 利尿ホルモン (α-hANP), 手術侵襲, ストレスホルモン, 水・電解質バランス


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