[書誌情報] [全文PDF] (2784KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 89(8): 1291-1295, 1988


症例報告

肛門管より発生した汚溝腺癌の2例: 術後遠隔転移に対するシスプラチンの著効例

市立堺病院 外科

大里 浩樹 , 里見 隆 , 先田 功 , 石田 秀之 , 星 修 , 川崎 高俊 , 坂口 旦和

(昭和62年7月25日受付)

I.内容要旨
汚溝腺癌は歯状線直上に遺残する汚溝膜より発生する移行上皮よりなる悪性腫瘍である.その頻度は,肛門管悪性腫瘍全体の2~3%と少なく,治療方針,治療成績については明確ではない.我々は,最近58歳,60歳,共に女性の肛門管理原発の本腫瘍の2例を経験した.1例は根治術術後早期に局所再発,後に肺,肝に血行性転移を認め,残る1例は多発肝転移により姑息的手術を行つた症例である,2例とも術後骨盤内の病巣に対して放射線療法を行い,局所的な効果を得た.更に,全身的な化学療法としてcisplatin(以下CDDP)を経静脈的,経動脈的に投与した.CDDP投与総量は症例1では280mg,症例2では260mgであつた.CDDP投与による,症例1おいて肺転移の完全消失,症例1,2ともに肝転移の著明な縮小を得たが,骨盤内の原発巣,局所再発巣に対しては,肛門部痛の消失,局所再発巣によると思われる水腎症の改善などの間接的な効果は認めたものの,画像上の縮小効果は殆ど認められなかつた.これまでにも,本腫瘍に対するCDDPの有効例は報告されており,自験例2例と同様血行性転移に対して著効している.このようにCDDPは血行性転移に対して有効な薬剤と考えられるが,主病巣及び局所再発巣に対しては余り効果は期待できず,切除療法以外では,従来のように放射線療法や,主病巣に有効であつたとの報告のあるbleomycin,vincristin等の抗癌剤の併用療法を行わざるを得ないと考えられた.

キーワード
汚溝腺癌, 汚溝膜, シスプラチン (CDDP), 動注療法


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。