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日外会誌. 89(8): 1204-1210, 1988


原著

冷却保存肝のエネルギー回復に及ぼす各種エネルギー基質の影響
―灌流肝モデルを用いて―

愛媛大学 医学部第2外科学教室 (主任:木村茂教授)

渡部 祐司

(昭和62年10月5日受付)

I.内容要旨
冷却保存肝の血流再開後のエネルギー代謝に及ぼすエネルギー基質の影響を明らかにするため,ラット肝を2時間冷却保存した後,グルコース,アラニンあるいはパルミチン酸を含むKrebs-Henseleit 緩衝液で37℃で60分間灌流し,エネルギー充填度(Energy Charge,EC)を始めとして酸素消費速度,灌流液中のグルコースやアンモニア濃度などの変化を調べ以下の結果を得た.
1)通常の肝組織のECは0.85±0.02であつたが,血流を遮断して2時間冷却保存すると,0.42±0.05にまで低下した.これを生理的濃度であるグルコース100mg/d1を含む液で灌流すると,ECは0.65±0.03にまで部分的に回復したが,グルコース濃度を200mg/dlに増加させてもそれ以上の回復はみられなかつた.
2)グルコース(100mg/dl)に更にアラニン(3.3mM)を添加して灌流すると,ECは0.79±0.01とほぼ正常にまで回復した.同様の良好なEC回復はパルミチン酸(0.5mM)添加によつても認められたが,パルミチン酸濃度を1mMに増やすと,ECは0.46±0.02とほとんど回復しなかつた.3)灌流中の酸素消費速度はグルコース単独群に比べ,アラニンやパルミチン酸添加群で有意に亢進しており,特に1mMパルミチン酸添加群で,最も高値を示した.4)灌流液中のグルコース濃度は,グルコースの初期濃度にかかわりなく,灌流時間と共に増加したが,その程度はアラニンを添加した場合に最大となつた.5)灌流中のアンモニアは灌流初期には増加したが,60分後には前値にまで低下した.一方,尿素は時間と共に増加し,特にアラニン添加群では,約3倍と他群に比べ著しく高値となつた.
以上の結果より,冷却保存肝のエネルギー状態を回復させるには,グルコース単独では不十分であるが,アラニンやパルミチン酸を加えると,それらが活発に代謝分解されてエネルギー基質として有効に利用されることが明らかとなつた.しかし,生理的濃度を超えるパルミチン酸はミトコンドリアの脱共役を起こし,かえつてエネルギー源としては不利であることが分つた.

キーワード
エネルギー代謝, 肝灌流, 酸素消費速度


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