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日外会誌. 89(7): 1058-1065, 1988


原著

腹部多臓器同所性同種移植の実験的研究
一特に手術手技について一

鹿児島大学 医学部第2外科

熊谷 輝雄

(昭和62年5月25日受付)

I.内容要旨
雑種成犬を用い,腹部多臓器(肝,胆,膵,脾,両側腎及び副腎と腸間膜を含む胃から大腸までの全消化管)をen-blocに摘出,同所性に移植する手術手技を開発し,生存実験を試みた.
Donorは表面冷却低体温法で食道温27℃前後で開腹し,移植臓器を遊離した後,腹腔内局所冷却で臓器温20℃前後でen-blocに摘出した.移植臓器の灌流は行なわず,ヘパリンも使用しなかつた.recipientも表面冷却法で食道温30℃前後まで冷却,移植対応臓器を摘出後,移植臓器を同所性に移植した.
27例の基礎実験で手技を確立した後,8例の生存実験を試みた.2例で最長生存60時間を得,1例は起立,歩行,摂食可能となつた.死因は乏尿,BUN•Cr値の上昇からみて腎不全及び衰弱によるものと思われた.
60時間生存例の組織学的検索では,腎にわずかに糸球体基底膜の肥厚が認められた他は移植各臓器に特に異常所見は認めなかつた.
本術式による腹部多臓器の同所性移植が手技的には可能なことが確認され,今後本移植が腹腔臓器の移植病態生理及び,臓器相関の解明に役立つ新しいモデルになりうると考えられた.

キーワード
多臓器移植, 低体温法, Denervation, リンパ路遮断


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